「これ」「あれ」「もうやめます」

90%夢で見たストーリーを勝手に小説化 / 2022-08-12T00:00:00.000Z

普段使う駅の2個前で友人と待ち合わせ、鈍行列車で4駅行った所にある狭いホームを持つ高架駅へと降り立った。基本的に清潔ながらも、ちょっと錆びついたやわらかく少し重い風が、穏やかに流れる。

普段使わない、しかも湿っぽい駅に友人とわざわざ降り立ったのは、ラーメンを食べるためだ。暑い夏でも寒い冬でも、美味しいラーメンは話の種にもなる上、QoLを上げる最適な手段である。

階段を下りて左に曲がって大通りを徒歩3分。青い屋根に薄っすらと店名が書いてある店にたどり着いた。時計は10時45分。先客はたった2人である。初めての店ではあるが、一応は下調べはしてある。そこまで緊張せずに列へと加わった。

11時から始まるにしては若干ギリギリであるが、少なく見積もっても8席はあるカウンターへと十分に収まることが出来ることが分かり安心した。Discord上ではよく話していたものの、直接会ったのは4ヶ月ぶりであったことから、お互いの近況を笑いを挟みつつ軽く話していた。


10分そこらが経った後、軽いガラス戸の中からまだ30代の香りはするけれども実際のところ40代を隠し切れない店主さんと見られる男がのそのそと出てきた。「丹精を込めて準備中」が「誠意をもって営業中」に変わった。食券購入開始の合図である。

ラーメン、750円。味玉ラーメン、850円。小ライス100円…。よくあると言えばよくある食券機を眺めながら、自分の腹具合とお財布との高頻度な通信をして最適な選択をする。幸いなことに後客はいない。常識的な範囲でゆっくり選ぶことが出来る。

舐めるようにして券売機を眺めると、右下の下から3列目に奇妙なメニューがあることを見つけた。「これ」、100円。「あれ」、200円。「もうやめます」、300円…。

固まった私を見て友人が後ろからのぞき込んできたが、やはり私と同じような顔をしている。「これ」・「あれ」という曖昧な商品、そして「もうやめます」という哀愁のある言葉。さらに100円ずつ価格が上がっている。固まらない方がむしろイレギュラーといえるであろう。


固まった二人のひょろがりを見た先客のうちの一人は、見た感じ60代といえようか。風呂に二日は入っていないであろうその乾いた脂を見せつける額に、一週間は洗濯していない薄汚れた緑の服を来ていた彼は、私たちにさも一か月前にも会ったことがあるかのように、やたら早口で話しかけてきた。

「君たち、ここ初めてかい?」

「ええ、まあ。」

「初めて見た人はまあ戸惑うよな~ 頼みはしないけど。」

「あっ、そうなんですね。」

正直半分厄介な人に絡まれたとしか思っていなかったため、話をさっさと切り上げようとした。それを察してかどうかは知らないが、わずかに予想外の問いかけをしてきた。

「君たち、今日はお客さん少ないからさ、頼んでみなよ。」「おじさんはもう一回頼んじゃったからさ。『家族サービス』は一回までらしくってさ。」

「家族サービス…、ですか…」

「まあとりあえず買っちゃいなよ、ほらほらせっかく早く来たんだしさ」

「はあ…」

そういったわけで私は普通のラーメンと小ライスに加えて、合計600円の謎の食券3枚を購入することとなった。有効期限は当然今日。困惑しながらまだまだ余裕のあるカウンター席へと座った。


カウンター席に余裕があるといっても10席程の店舗である。この会話は当然店主の方の耳へダイレクトに届けられていた。そのため食券を貰いに来た店主さんに当然というべきか「家族サービス」のフォローをされることになった。

「ヤマさんがうるさくてすみませんね。彼、結婚もしていないし仕事をくるくる変えてしまうんですがおしゃべりでね。」

「はぁ」

「そんでもって小ライスとラーメンですね。お好みありますか?」

「えーと。濃いめ・固め・少なめでお願いします。」

「濃いめ・固め・少なめですね。」「…あと『これ・あれ・もうやめます』の味玉ラーメンの食券です。有効期限は来年の今日ですね。」

友人へと目を配ると、やはりというべきか目を丸くしていた。店主さんははにかみながら続ける。

「実はこのお店、師匠に認めてもらってはいるんですが、あまりいい顔されていないんです。しかも私のパートナーも独立することに賛成してもらえていないんです。なので、こうやって来年の今日まで食べたいと思ってくれている人がいるってことにすることで、何とか丸めこもうとしているんです。」

「なるほど…」

意味があるようで無いことをやっているその姿を見ながらラーメンを食べた。開店直後であるからか色々な要素がとがっている。そんなラーメンも、それはそれで美味しかった。


「ありがとうございました」

そう言ってお店を二人で店の扉を開けた。ちょうど太陽の光が青い屋根に直接当たり、一段と輝いている。

財布の中のギザ10を入れている部分へと「もうやめます」をそっと入れた。店へ入った時と違って脂めいているその扉は、まだまだずっと脂を付け続けられてしまうのだろうと思った。

最後に

夢で見た話が本当に良かったので小説チックに書き起こしていました。地学記事がどうしても用意できなかったからじゃないよ!

元が夢なので後半は若干創作していますが、とはいえ9割方は元の夢です。

ちなみにこんな夢を見たのは質の良いラーメンを食べたからなので、ラーメンは気軽に摂取したほうがいいと思います。

Writer

Osumi Akari

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