首班指名選挙中の「麻生傀儡政権であることの証左であるかのような拍手」は「高市氏が降壇した際の拍手」だったと話題に

自民党は「検証動画」をアップロードし、投稿を行った議員は投稿を削除 / 2025年10月25日

いわゆる「首班指名選挙」とは日本の国会で行われる「内閣総理大臣選挙」を示しており、これは国会議員が互いに総理大臣であるべき人の名前を書き、議席番号順に演壇へと上がり投票を行う形式が取られています。2025年10月21日に行われた首班指名選挙においては麻生太郎議員の投票が行われたタイミングにおいて拍手が起こり、これに対して与野党の議員間でSNS上における応酬が発生しました。

この記事ではその顛末をまとめ、「最後に」セクションにおいて筆者の所感を記しています。SNSにおける話題に関して参考になれば幸いです。

結論

  1. 立憲民主党の衆議院議員が「麻生太郎氏が投票を行った際の拍手」が「高市政権が、麻生傀儡政権であることの証左であるかのよう」と投稿
  2. 自民党の議員から反発及び自民党広報による「検証動画」の投稿を行う
  3. 投稿を行った議員は投稿を削除

拍手と感想

首班指名選挙中において投票が進行している最中、衆議院議員である麻生太郎氏が投票を行ったタイミングで議場から拍手が発生しました。これは報道各社が行った中継で確認することが可能です。

上記動画の1時間50分ちょうどから麻生氏が投票を行う様子が確認できます。確かに麻生氏が投票を行った時において拍手が起こっていることを確認することが可能となっています。

立憲民主党の衆議院議員である尾辻かな子氏は、このタイミングでの拍手に関して、「本日の衆議院での首班指名選挙。麻生さんが投票箱に札を入れる際に本会議場で拍手が起こる。高市政権が、麻生傀儡政権であることの証左であるかのような拍手でした。」(削除済み)と投稿を行いました。この記事を公開した25日時点では後述の通り削除されていますが、投稿されたツイート(ポスト)自体はウェブ魚拓から確認できます。

この尾辻氏の投稿に対して、自民党の衆議院議員である鈴木貴子氏は以下のように「異議」を表明する投稿を10月24日の午前に行いました。この投稿は直接尾辻氏の投稿に対する言及こそ行っていませんが、「それは「高市政権が、麻生傀儡政権であることの証左であるかのような拍手」と書かれておりました」とあるように、尾辻氏の投稿に対するものであることが明瞭となっています。

投稿中においてメンションが行われている自民党の広報アカウントは、当該投稿を引用した上で「検証動画」を投稿しました。この検証動画は自民党が撮影した、高市氏を追っているカメラの映像及び演壇上に対して固定しているカメラの映像2つを合成したものとなっています。

この動画はTwitter(現: X)以外にもYouTubeにアップロードが行われています。ここにおいては「ファクトチェック!首班指名で沸き起こった拍手について(2025.10.24)」というタイトルがつけられています。

この後、投稿を行った尾辻議員は当該投稿を削除した上で、10月24日の深夜に以下のような言明を行いました。

尾辻議員はここにおいて「議場の私の席からは麻生議員の投票時に拍手が起こったように見えた」としており、問題となった投稿はその感想として投稿だとしています。また上記の「検証動画」によるものかどうかは不明ですが「検証いただいた結果、誤解であった」ということを認めています。

尾辻議員による言明投稿。「検証いただいた結果、誤解であった」の部分を強調している。

この記事の公開時点で、この言明に対する自民党や高市氏、麻生氏からの反応は見られていません。

最後に

今回の特徴的な点としては自民党広報による「検証動画」のアップロードにあるでしょう。今回の事案は「高市氏の降壇」と「麻生氏の投票」が偶然同じタイミングであり、 「高市氏の降壇」に対する拍手と「麻生氏の投票」に対する拍手を区別するということは不可能であるはず です。

鈴木氏が言うように「自席に戻られる高市総裁に対して拍手」を行った議員がいたとしても、麻生氏の投票に対して拍手を行った議員がいなかったということにはなりません。それに対して「事実と異なる」とされるのは多少横暴と言えるでしょう。自民党がアップロードした「検証動画」・「ファクトチェック」動画において分かることは、 「自席に戻られる高市総裁に対して拍手」を行った議員がいたということと、「麻生氏の投票」がそれと同じタイミングである ということです。

このため、「麻生氏の投票」に対して拍手を行った議員がいなかった、とはなりませんし、それを見て「高市政権が、麻生傀儡政権であることの証左であるかのよう」と思ったとしても、(その良し悪しは別として)一応は成立する話です。さらに言えば元の投稿は「麻生さんが投票箱に札を入れる際に本会議場で拍手が起こる」とありますため、「検証」がなされた後においても全く嘘ではない投稿であると言えます。しかしながら、SNSにおいては「立憲民主党の議員が"嘘"をついた」という方向で話は進んでいますし、「検証いただいた結果、誤解であった」と投稿を行った議員も(「麻生氏の投票」に対して拍手を行った議員がいなかったと検証されていないにも関わらず)そう認めてしまっています。

個人的に政党の広報がこういった動画の投稿を行うことはある種「攻めの広報」であり、弱かった自民党の広報戦略を鑑みると方向性としては正しいと思っています。最近では従来自党のWebサイトにのみ掲載していた全文書きおこしをTwitter(現: X)とYouTubeに書くようになるなど、「出来ることから攻めていく」と言える手法は良いものでしょう。しかしながら、このような方向に話が向かってしまっては鈴木氏が言うような「SNSのポジティブな部分」の活用とは全く異なると言えると思います。

あえて強い言葉を使えば、現在広がっているのは「薄慮と思考不足によるある種の"誤認"に基づいた怒りの投稿」であるともいえます。別にSNSの投稿に対して「もっと考えろ!」とか「責任を持て!」と思っているわけではありません。しかしながら、 これが広がっていることが「SNSのポジティブな部分」と言えるでしょうか 。私にとっては甚だ疑問です。

自党の議員の主張である「自席に戻られる高市総裁に対して拍手を行った議員がいた」ということを「検証」する広報というのは良いものだと思いますですし、それに関して適切な投稿であったといえます。しかしこの「検証」が悪く言えば「人々を踊らせる」ような投稿となってしまったのは、今回の関係者全員にとって不幸と思えます。今や主流となってしまったいわゆる「SNS時代における政治」に関して、ある種のランドマークとなるような事件となったものかと感じています。どうか、この記事を見た将来の方が、こんな誰でも思いつくような懸念を「今ではもはや珍しい、昔の懸念だなあ」と思ってしまわないような、まともな思考力(私のものがまともである保証はどこにもありませんが)が未来に残っているということを祈っています。

Writer

Osumi Akari

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