日本における地方選挙においては、国政選挙とはまた異なる展開を見せることがあります。その地域の将来性を大きく決める選択となることもあり、場合によっては激しい選挙戦が戦われる場合もあります。
2025年11月9日に投開票が行われた茨城県神栖市長選挙においては、現市長と元市議会議長が新たな市長の座をめぐって争い、得票数がどちらも16724票ちょうどとなる珍事が発生しました。この記事ではその概要と関連する公職選挙法に関する規定等についても言及します。
結論
- 2025年の神栖市長選で、2人の候補両方が「16724票」ぴったりの得票
- くじ引きで新市長が決定
- 地方議会では散見されるが、首長がくじ引きになる例はほぼ無い
現職と新人の一騎打ち
2025年の茨城県神栖市長選挙は、現職の石田進さんと新人の木内としゆきさんとの2人で争われました。朝日新聞によると、今回の選挙は現職の石田さんが2期8年の実績を強調し、小中学校の給食無償化などを示す一方、新人の木内さんは財政の健全化や定住人口の増加を主張していました。

この投票は11月9日に行われ、期日前投票のものも合わせて即日開票が行われました。21時25分に確定した神栖市長選挙の開票結果によると、2人とも 「16724票」ぴったり となる事態となってしまいました。首長選挙においては、原則として最多得票者が新たな首長となるのですが、こうした場合新たな首長をそのままでは決定できないこととなります。
神栖市は公職選挙法の規定にのっとり、選挙会において くじ引き を行いました。その結果新しい市長は新人の木内としゆきさんとなりました。
なお、この選挙における投票率は44.22%で、そのうちの約36.9%が期日前投票を活用していました。
公職選挙法第95条2項
このようになった場合の扱いの根拠は、公職選挙法第95条2項において以下のように定められています。ちなみに、その前提として地方公共団体の長は有効投票総数の4分の1以上、地方公共団体の議会の議員の場合は有効投票総数を議員の定数で割ったものの4分の1以上の投票が必要とされています。
当選人を定めるに当り得票数が同じであるときは、選挙会において、選挙長がくじで定める。
この「くじ」の方法に関しては公職選挙法中に具体的な規定はなく、各市区町村における選挙委員会によって様々な方法が取られています。選挙ドットコムのコラムによれば、数字の書いた棒を引かせて小さな数字の方を引き当てた方が当選といった手法があげられています。また、スマート選挙ブログによれば2010年実施の大鰐町長選挙において同数(3524票)となった際、選挙長がくじを引いて新しい町長を定めたこともあることが示されています。
僅差の首長選
先述の通り、首長選においてぴったり同一となることは少ないですが、僅差で新しい都道府県知事や市区町村長が決まった例は複数見られます。2025年に絞ってみても以下のようなものがあります。
- 宮城県知事選: 現職と新人4人の選挙。現職が6度目の当選を果たすが、新人のうち1人と約1万5千票差の僅差
- 新潟県燕市長選: 人口約73000人の市で、新人同士の戦いに。約16000票を互いに得票し、144票差で決まる
- 宮崎県延岡市長選: 宮崎県第3の都市で、前市長の病気療養に伴い新人3人の乱戦に。うち2人が20000票を得票し、36票差で決まる
- 高知県仁淀川町長選: 人口約4000人の町で、現職と新人の一騎打ちに。新人が16票差で新町長に
- 沖縄県多良間村長選: 人口約1000人の村で、現職と新人の一騎打ち。現職が9票差で4期目を。投票率は98%超え
このように、人口の多寡にかかわらず、僅差で新しい首長が決まることはあります。ただ、同数の事例というのは上記の大鰐町長選挙以外見つけることが出来ませんでした。
関連リンク
- 開票結果(最終確定):2025年11月9日執行 神栖市長選挙 - 茨城県神栖市
- 茨城 神栖市長選 新人の木内氏が当選 得票同数で"くじ引き" - NewsDigest by JX通信社
最後に
こうしたくじ引きというのは地方議会の特に最下位候補をめぐる戦いにおいてまれに散見されることではあります。しかしながら、首長選でこういったものが出るというのは極めて珍しいことです。
今後、神栖市がどのような未来になるのかは分からないですが、新しい市長には市民にとって満足のいく市政を率いてほしいと思っています。