2025年12月15日、ブラジル南部の都市グアイバにおいて、記録的な強風が観測されました。現地の報道によれば、同都市が属するリオグランデ・ド・スル州においては、瞬間的に時速90km(秒速25メートル)を超える風が観測されており、落下した木の枝の下敷きになった人や家屋の損壊等を生じさせてしまっていることが報告されています。
この強風に伴って、グアイバに店舗を持つ大型小売チェーン「Havan」が目印として設置していた「自由の女神像」のレプリカが倒壊してしまいました。また、このレプリカが倒壊する瞬間が動画によって記録されており、SNS上で広まっています。この記事では事案の概要及びSNSでの広まりについて簡単にまとめます。
結論
- 強風で約24メートルの高さを持つ自由の女神像のレプリカが倒壊
- SNS上で倒壊する瞬間の動画が広く出回る
- 小売チェーンの持つレプリカなのに、なぜか「1986年のアメリカ独立200周年記念で建立された」という尾びれが付いて回る
自由の女神像のレプリカが倒壊
2025年12月15日(現地時間)、ブラジル南部の都市グアイバに店舗を持つ「Havan」が設置した自由の女神像のレプリカが、強風によって倒壊してしまいました。倒壊する瞬間の動画がRafael Borgesさんによって撮影されており、メディア等が一斉に報じたことによって広まりました。
TEMPO | Vendaval que atingiu a Grande Porto Alegre derrubou estátua da Loja Havan em Guaíba (RS). pic.twitter.com/gpMauuSnSK
— MetSul.com (@metsul) December 15, 2025
現地メディアの報道によれば、この像は「Havan」が2020年にグアイバの地で営業を始めた際に設置されたもので、適切な技術的な証明を取得していたとされていますが、極端な気象条件のため耐えきれなかったものと思われています。
大型小売チェーン「Havan」は、報道機関に対して以下のようなコメントを発しています。Google翻訳及びGeminiを用いて翻訳したものは以下のようなものとなります。原文はこちらです。
Havanは、ポルト・アレグレ都市圏グアイバにある当社の大型店舗に設置されていた「自由の女神像」が、今週月曜日(15日)の午後に倒壊したことを報告いたします。これは、同地域全体に損害をもたらした強風の突風によるものです。
事故当時、リオグランデ・ド・スル州民間防衛局より赤色警報(特別警報)が発令されており、時速90kmを超える風が記録されていました。
本件による負傷者および第三者への被害はありません。当該エリアは直ちに封鎖され、すべての安全プロトコルに従って対応しており、当社の工事チームが数時間以内に構造物の撤去作業を開始する予定です。
「自由の女神像」の全高は35メートルです。今回倒壊したのは、そのうち像本体の24メートル部分のみでした。Havanは、すべての像において技術責任登録(ART)を取得していること、またグアイバ店の構造物は2020年の大型店舗オープン当初より設置されていたことを明言いたします。
当社は、お客様、従業員、そして地域社会の安全を最優先事項としております。今後、技術的な調査を実施し、事故の原因究明および今後の対策を決定してまいります。
なお、倒壊した像を設置していた「Havan」は、Webサイト等においても積極的に採用されている通り、自社のシンボル的扱いとして自由の女神像の意匠を活用しています。大型小売チェーンとしてその存在をアピールするためか、店舗において自由の女神像のレプリカを設置しているようです。日本でいえば、(規模はかなり異なりますが)KFCの店舗の前に設置されていることの多いカーネル像に近しいものといえます。
アメリカ独立200周年記念で建立された?
この動画がSNSで広まっていく過程において、ブラジルにおける報道において存在しなかったコンテキストが追加されて広まっていく様子が見られました。例えば、とある日本のWebメディアのアカウントは以下のような投稿を行っています。

私が調べたところ、英語圏において数十万人のフォロワーがいるアカウントにおいて類似の投稿がされています。当該の投稿においては「レプリカの像は1900年代初頭に建立され、フリーメイソンと関連している」といった主張が行われています。
ただ、先述の通り倒壊した像は2020年に設置されたものであり、アメリカ独立200周年(そもそもこれは1976年)や20世紀初頭における何かしらとは関係のないものと考えられます。しかしながら、画像にもあります通り多くの人々にこのような言説が広まってしまっています。また、ブラジルの前大統領に関連する問題でブラジルとアメリカ合衆国との関係が良いとは言えない時期に、アメリカ合衆国の象徴としてよく知られる自由の女神像(のレプリカ)が倒れたことはある種のストーリー性を持ってしまっているため、こうした言説が広まってしまっています。
関連リンク
- Wind gusts above 90 km/h knock down a replica of the Havan Statue of Liberty in Guaíba (RS) - Mix Vale
- Vídeo: Temporal derruba Estátua da Havan de Guaíba - Rádio Uirapuru
- Como ficou 'Estátua da Liberdade' da Havan que desabou durante temporal no RS - G1
- Estátua da Liberdade da Havan cai em Guaíba após rajadas de vento fortes – Portal Veloz
最後に
調査した範囲ではRafael BorgesさんはSNS等に直接動画を投稿したわけではないようで、WhatsAppやFacebookコミュニティなどの閉じたコミュニティで拡散されたのちに報道機関等がさらに拡散した、といったような経緯でこの動画が広まったものと推察しています。関連リンクに挙げたRádio Uirapuruの記事ではファイル名に WhatsApp という文字列が含まれており、画質もかなり良いことからそうした出自があるものと考えられるためです。
私のこの記事で掲載した動画の掲載元は、どちらもブラジルのメディアのもので、知名度があるか一定の帰属表記があるということから採用しました。しかし、出所が怪しいと尾びれ背びれが付いてしまった際に検証が大変となるため、(今回はG1において帰属表記があったため何とか辿れましたが)可能であればソースをもっと明確にしてほしかったと思っています。
他にも、BNOはこうした衝撃的な動画を共有しがちですが、どこから出てきた動画かを明言しない傾向が強く、今回の場合でも帰属表記が無かったためソースを探るのが大変でした。しかし、こうした際においてはGrokを活用することによってある程度は負担を軽減することが出来ました。Grokに投稿のリンクを添えつつ「この投稿に添付されている動画のオリジナルはどこにありますか? BPOは基本的にこういったメディアを他から転載する傾向にあります。」と伝えると、よしなに検索等を行ってくれました。直近では結果的にデマをばらまいてしまったGrokですが、こうした使い方が出来るのは大変便利だと思いました。
また、こうした衝撃的な映像に対して誤ったストーリーが追加されて広まっていってしまっている様子が、このように明瞭かつ記録可能な形で広まっているというのも珍しい状況かと思います。ソースが日本からですと確認しづらいブラジルポルトガル語で書かれているものが大半であり、なおかつ先述のように不明瞭なソースとなると、こうした誤った情報を打ち消すのは非常に困難となりうる1つのランドマーク的事例となったかと思います。この記事も誤った情報を全くもって含んでいないという保証は出来ないので堂々とは言いづらいですが、今後とも誤った情報には注意していただければと思います。