アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃を主な要因として、現在石油価格が大幅に上昇しており、様々な対応が行われています。OECD加盟国のうち一定の石油備蓄量を保有している国々によって主に構成されるIEA(国際エネルギー機関)は、3月20日に「Sheltering From Oil Shocks」と題したレポートを公開し、需要側で可能な石油使用を削減する方策を示しました。
この記事ではその概要とレポートの概略に関して書いていこうかと思います。レポートの全文はIEAのWebサイトで公開されているため、そちらも合わせてご参照ください。
結論
- 需要側が石油の使用を削減する方策を10個提示
- 導入可能な業種はリモートワークを導入したり航空機による移動を回避したりするなど
- 一時的かつ最も支援を必要とする消費者に的を絞った緊急支援メカニズムの構築も推奨
石油使用を削減する方策10個
このレポートでは前半に石油使用を削減する方策10個とその概略を示しています。インパクトが大きいと思われる順に並び変えると以下のようになります。
| 措置 | 対象燃料 | 削減率(範囲) |
|---|---|---|
| 航空旅行の回避 | ジェット燃料 | 7〜15% |
| 自家用車等の相乗り+エコドライビング | 乗用車の燃料 | 5〜8% |
| 在宅勤務 | 乗用車の燃料 | 2〜6% |
| 制限速度引き下げ | 乗用車燃料+トラック | 1〜6%(乗用車)、約5%(トラック) |
| ナンバープレートを用いた規制 | 乗用車の燃料 | 1〜5% |
| 商用車の効率的運転 | 商用車(主に軽油) | 3〜5% |
| 石油化学原料の柔軟性+産業効率化 | 産業用石油 | 需要施設ごとに最大で5% |
| 公共交通機関の利用促進 | 乗用車の燃料 | 1〜3% |
| 調理手段の切り替え | 調理用LPG | 5〜15%の世帯が電気などに転換可能 |
| 輸送用LPGの転用 | LPG→ガソリンへの振替 | (需要の再配分) |
初めに、航空機を用いた移動のうち、削減可能なビジネス移動は40%ほどにも及び、これによってジェットエンジン用の燃料消費を最大で15%削減できるとされています。政府は企業の出張を抑制するような政策をとることによってこの削減を進めることが可能であり、政府自らが公務員の出張を抑え、並行してオンライン会議を推進することで範を示すことが出来るとされています。
続いて自家用車の相乗り及びエコドライビングを推進することで乗用車の燃料を最大で8%ほど削減できるとされています。マドリード・ヒューストン・深圳・ロサンゼルスなどの各都市では、2人以上の乗車がある車両が利用できるレーンを設置するなどの施策を用い、相乗りを推進しています。このことで同じ1台の自動車を用いたとしてもより多くの輸送需要を満たすことが出来るとしています。
また、緩やかな加速・アイドリングの削減・車内エアコン使用の抑制といった「エコドライビング」を推進することで、石油使用量削減の効果をより大きくすることが出来るとされています。このような施策はディーゼル車よりもガソリン車で行った場合の方が効果が大きいとのことです。
この他、通勤に伴う自動車需要の削減のためとして、リモートワーク・在宅勤務の推進を推奨しています。先進国では約3分の1の職種が、新興国・途上国では約5分の1の職種がリモートワークに適しているとしており、これによって自動車移動を削減できるとしています。通勤需要は地域によって大きく異なるものの、自動車需要のうち最大で30%を占めるものであるとしており、テレワークを行っていなかった一般的なドライバーが週5日勤務のうち3日をリモートワークに切り替えた場合、個人の自動車石油消費を最大20%削減できるとしています。
リモートワークに適していない職種も存在するため、国レベルでは、在宅勤務が可能な従事者が週に3日追加でリモートワークを行った場合、自動車からの石油消費を2〜6%ほどの削減となるとしています。しかしながら、2022〜2023年のエネルギー危機に際してEUはリモートワークを推進したほか、ラオス・タイ・ベトナムなどでも推奨が行われているとのことです。
緊急支援メカニズムの構築
このレポートにおいては、政府が消費者に対して実行可能な緊急支援メカニズムの構築についても触れられています。これまでのエネルギー危機においても政府による緩和措置・支援措置が行われてきました。しかし、価格上限やエネルギー税の引き下げなどの一律的措置は、比較的容易に運用でき圧力を迅速に緩和できるため広く利用されたものの、政府にとってのコストが高く、段階的廃止が困難となることもあることを指摘しています。
このことから、一時的かつ最も支援を必要とする消費者に的を絞った緊急支援メカニズムの設計と、効率化と需要抑制を促進する短期的措置への投資が重要であるとしています。この実例として以下のものを挙げています。
エネルギーを獲得するためのコストの引き下げや、エネルギー料金の支払いを支援するための資金提供が第一に挙げられています。これは2022年に日本政府が住民税非課税世帯を中心に行った支援金と同様の給付や、公共交通としてのバイク等を運行している人々に対する給付金なども含まれています。また最大料金を設定することにより、低所得者に対してより恩恵の大きい形での支援を行うことも可能であると指摘しています。
他にも、課税及びエネルギー料金の設定によっても需給バランスを調整できるとしています。例えば、政府はエネルギー料金にかかる税金を廃止または引き下げて家計のコストを低減であり、標準なものよりエネルギー消費の少ない製品に対する減税(エコカー減税等)も、家計のエネルギー料金引き下げの手段となるとしています。政府はまた、所得水準別に価格閾値を定める料金帯を設計し、消費量の少ない世帯に低い価格を提供して最低限のエネルギーのニーズを確実に満たせるようにすることも可能であるとしています。
結論として、政府はこれらの短期的な策を実行すると同時に、燃費基準の引き上げや最適化のための適切な管理システムの構築などの長期的に意味のある措置を組み合わせることが大切であるとしています。これによって家計と企業を将来の石油価格ショックに対してより強靭にするとしています。
レポート
レポートの全文はIEAのWebサイトで公開されています。CC BY 4.0でライセンスされているため、概要の翻訳を掲載します。

中東における紛争は、ホルムズ海峡を通過する海上輸送がほぼ停止したことにより、世界石油市場史上最大の供給途絶を引き起こした。従来、同海峡を毎日約1500万バレルの原油と500万バレルの石油製品が通過しており、これは世界の石油消費量の約20%に相当する。これらの輸送量はほぼ皆無にまで減少した。この供給喪失は世界市場に甚大な影響を及ぼし、原油価格を1バレル100ドル超に押し上げるとともに、一部の石油製品、とりわけ軽油、ジェット燃料、液化石油ガス(LPG)の価格を大幅に上昇させている。価格高騰が家計、企業、そしてより広範な経済に与える影響について懸念が高まっている。
ホルムズ海峡の通航再開は、石油・ガスの安定的な供給を回復し、市場と価格への圧力を緩和するための最も重要な措置である。その間、世界各国は供給増加と急激な価格上昇による消費者への影響軽減のため、さまざまな対策を講じている。供給面では、IEA加盟国が3月11日に緊急備蓄から4億バレルの石油を市場に放出するという極めて重要な決定を下した。これはIEA史上最大の備蓄放出である。しかし、需要面もまたエネルギー安全保障の重要な要素である。
本報告書では、IEAが家計、企業、政府が今日の石油ショックから身を守り、負担軽減を図るために活用できる需要側の10の選択肢を詳述する。これらはIEAの長年にわたるエネルギー安全保障に関する専門的知見と各国の具体的事例に基づいている。政府は率先して行動し、またこれらの措置を促進する役割を果たし得るが、多くは個人や企業が直接採用することも可能である。これらの選択肢の大半は道路輸送燃料の消費に関するものであるが、航空輸送、調理用燃料、産業における燃料使用も対象としている。 道路輸送に関する主な選択肢は以下の通りである。
- 可能な場合は在宅勤務を行う: 在宅勤務は通勤に伴う石油消費を大幅に削減できる。国レベルでは、在宅勤務が可能な職種の従事者が週に3日追加でリモートワークを行った場合、自動車からの石油消費を2〜6%削減でき、個々のドライバーにとっては平均約20%の削減が見込まれる。
- 高速道路の制限速度を少なくとも10km/h引き下げる: 高速道路の制限速度を10km/h引き下げることで、個々のドライバーの石油消費を5〜10%、乗用車全体の石油使用量を1~6%削減できる。大型貨物車はすでに低速で走行しているため、約5%の節約が見込まれる。
- 公共交通機関の利用を促進する: 自家用車からバスや鉄道などの公共交通機関への移行により、自動車の国内石油使用量を1〜3%削減できる。自転車や徒歩による近距離移動でさらなる削減も可能である。
- 大都市において曜日ごとに自家用車の通行を交互に制限する: ナンバープレートに基づき指定区域への自動車の通行日を限定することで、交通渋滞、アイドリング、燃料消費の大きいストップ・アンド・ゴー走行を軽減でき、自動車の国内石油使用量の1〜5%を節約できる。
- カーシェアリングの拡大と効率的な運転の実践: カープーリングは乗車率の向上と道路混雑の緩和に寄与し、走行時間と自動車使用量を削減する。タイヤ空気圧の点検、エアコン設定の調整、効率的な運転習慣といったエコドライビングと組み合わせることで、自動車の燃料需要を約5〜8%削減できる。
- 商用車・貨物輸送における効率的な運転: タイヤ空気圧の定期点検、アイドリング削減、急制動・急加速の抑制といったエコドライビングに、積載の最適化などの運用改善を組み合わせることで、商用車の燃料需要を3〜5%削減できる。
- 輸送用LPGの転用: 世界の自動車のうち約2%がLPGで走行している。改造車やバイフューエル車をガソリンに切り替えることで、調理などの優先用途にLPG供給を確保できる。
航空輸送用燃料、調理用燃料、産業に関する選択肢は以下の通りである。
- 代替手段がある場合は航空旅行を避ける: 出張目的のフライトの約40%の削減は短期的に実現可能であり、出張削減キャンペーンへの非常に高い参加率が得られれば、ジェット燃料の需要を7〜15%削減できる。
- 可能な場合は他の近代的な調理手段に切り替える: LPG供給が一層逼迫する中、電気式その他の代替的近代調理手段のより広範な普及により、LPGの他の非必須用途での節約と並行して、調理用燃料の不足に対処できる。
- 石油化学原料の柔軟性を活用し、短期的な効率化・保守措置を実施する: 供給量のより多い石油原料の処理を優先することで、他の石油製品への圧力を緩和できる。設備運用と保守の最適化により、個々の施設の石油使用量を最大5%削減できる。
2022年の事例に見られるように、政府は価格急騰時に消費者のエネルギー料金を支援する措置を講じることができる。しかし財政的手段には限りがあり、最も支援を必要とする層に的を絞った対策が不可欠である。より長期的には、本報告書はエネルギー安全保障の向上と将来のショックへの脆弱性の低減に資する構造的措置に関する指針も提示する。
IEAは50年以上前に、世界的な石油ショックに対応してエネルギー安全保障を維持するという中核的使命を持って設立された。今回の危機は石油にとどまらず、天然ガス供給の途絶を含み、電力の安定供給と価格にも波及的影響を及ぼしている。IEAは、各国政府が現在の混乱への対応策を検討・策定するにあたり、引き続き緊密に連携していく。
レポートはこれに続けてそれぞれの方策に関する詳細や、先述した軽減策についても記されています。PDFも提供されていますが、各章ごとにHTMLでも提供されています。このためブラウザでの翻訳機能を用いても容易に読めると考えられます。
関連リンク
最後に
日本においてはリモートワークの導入に関して大きく関心がもたれている印象がありますが、レポート後半において支援メカニズムの構築に関する内容があることを伝えているメディアが少ないようでしたので書きました。あくまで国際機関のレポートですので、日本の事情とは合致しない部分も多い面もありますが、参考になる面もあるかと思います。