秋田県八郎潟町は、秋田市の北にある八郎潟に面する町で、秋田県内で最も小さい自治体です。この町で8日、脳出血で入院中であった町長の不信任決議案が可決されました。
この記事ではそのいきさつを簡単にまとめます。参考になれば幸いです。
結論
- 八郎潟町の畠山菊夫町長に対して不信任決議案が可決、畠山町長は2月から脳出血で入院中
- 地方自治法では当人が議長に申し出ないと自発的な退職が出来ない
- 地方自治法の「バグ」か、首長の権限を担保するために必要なのか
不信任決議案
八郎潟町の議会は8日に行われた令和8年第2回臨時会において、同町の畠山町長に対する不信任決議案が可決されました。臨時会においては「 畠山町長が病気により職を辞することについて 」として扱われました。これは4月28日に行われた臨時会で提出を決めていたものになります。
臨時会の模様は以下の動画で確認することが出来ます。本来は10時から開会する予定でしたが、開会が遅れ10時45分に開会の宣言が行われていますので、確認を行われる際はこれを念頭にしていただけますと幸いです。9時30分より全員協議会が行われていたとの冒頭発言が議会運営委員会よりありましたので、その議論が遅れたことによる影響が考えられます。
一方で畠山町長は2008年に八郎潟町の町長に当選した後、連続して当選を繰り返し、2026年現在では5期目を務めていました。議会においてその計画に対して賛否が議論されることはありましたが、決定的な対立を起こすことなく安定した町政を進めていました。このため、補正予算関連書類の日付を改ざんした石垣市の中山市長に対する不信任決議や、学歴詐称問題を原因とした伊東市の田久保市長に対する不信任決議とは大きく性質が異なる不信任決議となります。

畠山町長は2月6日、公務中に体調不良を訴えて病院に搬送されており、脳出血と診断されていました。提出者である議長は不信任決議の理由を、以下のように述べています。
- 町長が倒れたという悲報を聞いた当局関係者・議員・町民は町長の回復を祈り続けている
- 町政運営に支障をきたすことは本意ではないであろうという要望書を受けた
- 現行の法制度では議会に今後の判断が委ねられたものと認識している
- 苦渋の決断として地方自治法第178条第1項に基づく自動失職を求める
- これまでのご厚誼に深く感謝しつつ提出を行う
質疑においては町長夫人に民法上の成年後見人になってもらい、退職願を出す形による退職は無いのか、(不信任決議による)自動失職しかないのか十分に検討が行われたかといった質問がありました。副町長は第145条は本人の意思によるものを前提としており今回の事例には該当しないこと、成年後見人に関して全国町村会に確認を取ったところ、成年後見人は財産の管理を主とするものであり、町長の職に関して成年後見人が扱うことが難しい旨の回答を行っていました。
賛成討論として、議員より、以下のような意見が出されていました。
- 町長自身による意思表示が難しい場合、不信任決議もしくは町民によるリコールの2つしかないと認識
- 違和感がある手法であり、町民も私も町長の早期回復を祈っているが、 町長の不在期間が長引けば看過できない事案 である
- 今後全国の自治体でもあり得ることであるため、国に対して法改正を求めていく必要があるのではないか
以上のような質疑及び討論の後、採決が行われました。まだ審議する余地があるとして採決前に1人の退席が行われ、定数12に対し賛成10・反対1・棄権1で町長の不信任決議案が可決されました。
地方自治法
地方自治法第7章第2節において、普通地方公共団体の長に関する事項が定められています。また第5章第2節に住民の直接請求に関する事項が定められています。普通地方公共団体とは都道府県及び市町村を示すもの(特別区は特別地方公共団体)であり、普通地方公共団体に関する規定はそのまま八郎潟町に適用されることとなります。普通地方公共団体においてその長(八郎潟町の場合町長)の退職に関する規定を抜き出すとこの通りになります。
第八十一条 選挙権を有する者は、政令の定めるところにより、その総数の三分の一(その総数が四十万を超え八十万以下の場合にあつてはその四十万を超える数に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数、その総数が八十万を超える場合にあつてはその八十万を超える数に八分の一を乗じて得た数と四十万に六分の一を乗じて得た数と四十万に三分の一を乗じて得た数とを合算して得た数)以上の者の連署をもつて、その代表者から、普通地方公共団体の選挙管理委員会に対し、当該普通地方公共団体の長の解職の請求をすることができる。
(中略)
第百四十五条 普通地方公共団体の長は、退職しようとするときは、その退職しようとする日前、都道府県知事にあつては三十日、市町村長にあつては二十日までに、当該普通地方公共団体の議会の議長に申し出なければならない。但し、議会の同意を得たときは、その期日前に退職することができる。
(中略)
第百五十二条 普通地方公共団体の長に事故があるとき、又は長が欠けたときは、副知事又は副市町村長がその職務を代理する。この場合において副知事又は副市町村長が二人以上あるときは、あらかじめ当該普通地方公共団体の長が定めた順序、又はその定めがないときは席次の上下により、席次の上下が明らかでないときは年齢の多少により、年齢が同じであるときはくじにより定めた順序で、その職務を代理する。
(中略)
第百七十八条 普通地方公共団体の議会において、当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をしたときは、直ちに議長からその旨を当該普通地方公共団体の長に通知しなければならない。この場合においては、普通地方公共団体の長は、その通知を受けた日から十日以内に議会を解散することができる。
② 議会において当該普通地方公共団体の長の不信任の議決をした場合において、前項の期間内に議会を解散しないとき、又はその解散後初めて招集された議会において再び不信任の議決があり、議長から当該普通地方公共団体の長に対しその旨の通知があつたときは、普通地方公共団体の長は、同項の期間が経過した日又は議長から通知があつた日においてその職を失う。
③ 前二項の規定による不信任の議決については、議員数の三分の二以上の者が出席し、第一項の場合においてはその四分の三以上の者の、前項の場合においてはその過半数の者の同意がなければならない。
少々分かりにくい規定ですが、まず市町村長が自らその職を辞したい場合(任期の途中で辞職したい場合)、基本的には自ら市町村議会の議長に対してその旨を申し出る必要があります。次に市町村長に事故があった場合もしくは欠けてしまった場合は、副市町村長がその職務を代理することが定められています。
また市町村議会において不信任決議が行われた際に、議会を解散しないか解散・選挙後の議会でもう一度不信任決議を行われた場合は、市町村長はその職を失うこととされています。さらに住民の直接請求(リコール)により、(40万人に満たない場合)有権者の3分の1以上の請求があれば市町村長の解職を求めることが出来るとされています。
今回の八郎潟町の事例に当てはめますと、町長は辞職の意を示していませんので、第145条に基づく失職はありません。質疑中にもありました通り、成年後見人(法定後見)の役割として、民法第859条には「後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。」とありますので、成年後見人制度を活用した辞職は難しいと思われます。
次に第152条に関してですが、これは2月7日から副町長が職務代理者となっているため、地方自治法の原則通りの運用になっています。通常であれば、町長の任期が終了するまでこの運用が続けられます。
しかしながら、今回 町長の妻及び町議会は町長不在の状態を長引かせるべきではない としています。このため町長の職を解き選挙を行うことを考えなければなりません。先にも述べた通り第145条による自発的な辞職以外には、議会による不信任決議か町民によるリコールによるしかありません。このため、現行法令上異例ではありますが、不信任決議を議会が出すということが「町長不在の状態」を短縮するという観点からすると有効となります。
関連リンク
- 八郎潟町議会が畠山菊夫町長の不信任決議案を提出へ 脳出血で意識不明のまま3か月近く入院中 「町長を辞するのが最善」町長の妻からの要請書を受け 秋田 - ABS NEWS NNN
- 脳出血で倒れ療養中、八郎潟町長への不信任案 この方法しか…議会や家族の思い - 秋田魁新報電子版
最後に
個人的にはこの規定は、地方自治法に問題があるとは考えていません。むしろこのように辞職しにくい状態が担保されているからこそ市町村長は安定した自治体の運営が出来ると考えており、万が一体調を崩した際にも副市町村長がその職務を代理する規定が定められていますので、通常は問題ないと考えています。八郎潟町の人々は今回の不信任決議は、苦渋の決断であって法改正の必要を訴えていますが、このような必要性があるから安易に法改正を行うべきではないと思います。
一方、町長不在の状況が長引けば町政に混乱が生じうるという論も理解は出来ます。議長が繰り返し「苦渋の決断」であり、「名誉を傷つけない形で進めていきたい」としているため、不信任決議以外の形で議会・住民の意思を反映する手法の検討もまた必要であるとも考えています。今後どのように議論が進んでいくのかは不透明ですが、今後とも注目していきたいと考えています。