大まかにはU字な氷食谷

U字谷と言いつつ完璧に「U」じゃないことも / 2022-10-22T00:00:00.000Z

V字谷というのは河川が作り出す谷です。では氷河が作り出す谷はどのような名前をしているのでしょうか。

それは「U字谷」です。といってもV字谷が河谷の全てではないように、U字谷が氷河によって作り出された谷の全てではありません。というわけで今回はそのような「U字谷」を含めた氷食谷を扱っていきたいと思います。

結論

  1. 断面は緩くなる
  2. 河谷と色々違う

氷食谷

氷河を流れとして見ることは当然ながら極めて重要なのですが、それと同じくらい重要なものに「氷河はどのような特性を持った流れなのか」というものがあります。氷河というのは氷という固体から形成されているではあるものの、全ての場所で同じ速度で流れているわけではありません。河川ほど露骨ではないのですが、接地面から離れている中心部の方が比較的速く流れている傾向にあります。これは氷河に限ったことではありませんが、流体力学的に扱える流れは、境界面では流速が0になることから流路の壁から離れている場所の方が速くなるという現象が起こるからです。簡単に言うのならば流れが壁に邪魔されずに流れることが出来る真ん中の方が当然ながらブレーキが掛からない、といったところでしょうか。

先述の通り真ん中の方が早くなるということは壁に近づくにつれて遅くなるということです。遅くなるということは同時に侵食作用の低下を意味しています。しかしながら壁との接地面では0であるもののそこの近辺の速度は場所によって異なります。

氷河内部の流速分布イメージ

氷河内部の流速分布をものすごく簡単に示すとこの画像の右のような図になります。左側のように壁==0からスタートしているというよりは、中心部の速度が最大であり、そこから同心円状に速度が落ちていっていると言える分布です。そして先程示させていただいた通り侵食作用というのは速度に影響を受けるものです。つまり削っている河床がよっぽど不均質でない限り、速度に比例した侵食力に基づいて侵食されるために断面がスプーンで削ったような形になります。この結果U字谷といいますが基本的には放物線のような断面をしていることが多いという事態が起こります。ちなみに河川によって形成される河谷というのも似たような現象が全く起こらないというわけではないのですが、下刻作用・側刻作用という風に分けることが合理的というレベルで流速分布が上の図の左に、特に水路の壁付近で近しいものとなっているため目立つことがほとんどありません。

このような理由から氷河地形というのは割と明確に見えることが多いと考えられます。しかしながら日本に氷河は極めて少なく、実例も多くないため氷河地形と判断される基準がくっきりしているかというとそうではないものになってしまっているといった問題点も否定はできません。そのため氷食谷の認定が曖昧であったという歴史があり、近年一部の氷食谷については疑義が呈されていることもあります。

水と氷

以下の画像の左右の通り、河川の作るV字谷と氷河の作るU字谷はその断面形が異なるように見えます。

V・箱・U

上記では氷食谷そのものの説明を進めさせていただきましたが、ここではV字谷とU字谷がどのように違うのかということにもフォーカスを当てていこうかと思います。河川の作り出したものと比較するという視点で、氷食谷の理解が高まれば幸いです。

合流時の河床の高さ

水が形成するV字谷というものは当然ながら他の流れと合流することがあります。その際に段差が生まれることがありますが、それはやがては解消し支流と本流との間で河床の差はなくなるといったプレイフェアの法則と呼ばれる物が成立することが知られています。この法則はスコットランドのジョン・プレイフェアさんに発見されたもので、単に低地に河川が流れているのではなく河川こそが谷を作るといったことの説明に用いられました。

しかしながら氷河というのは極めて侵食のスピードが遅いことが多くまた規模の差が侵食力の差に大きく影響することから、氷河ではこの法則が成り立つことは必ずしも多いとはいえません。そのため温暖化の影響等で平衡線高度が上がることなどにより氷河が形成されなくなった場合、水がかつての氷河に沿って集まるもののこれがために河床の差の解決に時間がかかることがあります。こうしたものは「懸谷(hanging valley)」という名前で呼ばれており、大きな滝が形成される場合も少なくありません。

また滝が形成されなくとも「氷河階段」というべき大きな段差が残されることも少なくはありません。

参考文献

  • 池田敦「日本アルプスの氷河地形認定法の見直し」『日本地理学会発表要旨集』2019年度日本地理学会春季学術大会、2019年3月、NAID: 130007628618、DOI: 10.14866/ajg.2019s.0_299

最後に

U字谷というワードは聞いたことあったとしても、それが具体的にどういったものの説明はあまり聞いたことなかった方が多いと思います。そのような方でも氷食谷がどのようなものかについて簡潔に説明したつもりです。もし氷食が見られる山間部へ行く可能性がある方の参考になれば幸いです。

Writer

Osumi Akari