河床を同じサイズの砕屑物ばかりにする選択的運搬作用

アーマリングという、名前はカッコいい状況を作る / 2022-11-17T00:00:00.000Z

川の底にどのようなものがあるのかは当然ながら場所によって異なります。それはそうですよね。河川が存在する環境は千差万別ですから。しかしながら場所によっては特定のサイズばかりの砕屑物が河床にある場合があります。

今回はこの「アーマリング」と呼ばれる現象、そしてそれを生み出す「選択的運搬作用(selective entrainment)」についてざっくりと説明していこうかと思います。

結論

  1. 粒子のサイズによって運搬されるスタートラインが異なる
  2. 運搬されやすい粒子ばかり持っていかれる
  3. 同じサイズばかりの砕屑物に

「選択的」ということ

「選択的」という言葉が付く代表的な言葉として「選択的夫婦別姓制度」というものがあります。ここにおける「選択的」とは、パートナーが結婚後に名乗る苗字を自分のものにするか相手のものにするのか選べるという意味です。では「選択的運搬作用」における「選択的」とはどのようなものでしょう。

運搬作用の「パートナー」である流体と砕屑物とが運搬されるかどうかを主体的に決めあう…といった意味では当然ありません。ここでの「選択的」というのは、特定の要素を持ったものばかり作用を受けるといった意味を指します。この特定の要素というものを具体的に説明させていただくと、砕屑物のうちとある粒径を持つもののことを意味しています。とある粒径を持っているとなぜそればかりが運搬作用を受けることになるのでしょう。

同じサイズばかり

運搬作用についての記事で詳しく説明させていただいたのですが、粒子がエントレインメントされる基準を簡潔に図に示したものとして「シールズダイアグラム」というものがあります。

シールズダイアグラムの概略

概略は上に示したものです。これを見ると縦軸にはシールズ数(無次元掃流力)が、横軸には粒径を層流の底層の層厚で割ったもの(砂粒レイノルズ数)が用いられています。こう書くとよく分からないと思うのですが、掃流力は「流れの力」・砂粒レイノルズ数は「砕屑物の大きさ」と大まかに捉えてみるとそこまで難しい図ではないことが分かるかと思います。つまり砕屑物の大きさによってエントレインメント、すなわち動き始めるまでに必要な流れの力は異なること。逆に言えば同じ流れの力がかかっていても砕屑物の大きさによって動くものと動かないものが存在し得ることが読み取れます。

「同じ流れでも動くものと動かないものが存在し得る」という点が選択的運搬作用の理解に重要です。図の中にある線は大まかに言えばU字型をしているといえます。この図は概略なので具体的な数値は意図的に書いていないのですが、一般的には「礫・砂・泥」として分類されるうちの砂が一番運搬されやすいことが知られています。そこがU字型の線の最も低い場所です。つまり河床においては同じ流れでも砂がエントレインメントされやすく、反対に言えば礫・泥がその場に残りやすいことが知られています。

ここにおいて礫が残ることが見た目においても分かりやすいため、こうして河床に礫が増えていくことを「河床の粗粒化」と言います。また礫が河床のことを甲羅のように覆うという視点から同じことを「アーマリング」・「アーマ化」とも言います。

アーマリングが進むことによって河床の環境は単純なものになることが分かるかと思います。このことはメリットでもありデメリットでもあることが知られており、メリットとしては河川中における砂の量が減少するため過剰な堆積が起こりづらくなることがありますが、デメリットとしては生物の生息地の多様性が失われうることが考えられます。

参考文献

  • 松岡憲知、田中博、杉田倫明、八反地剛、松井圭介、呉羽正昭、加藤弘亮編「改訂版 地球環境学」『地球学シリーズ』1、2019年、国立国会図書館書誌ID: 029528546、全国書誌番号: 23186502、Open Library: 39812929M、OCLC: 1091664130、NCID: BB27908537、ISBN: 978-4-7722-5319-2。

最後に

次回のざっくりわかる堆積システムシリーズ: 転動・滑動・跳動

日本語では「選択的運搬作用」というように運搬作用そのものにフォーカスが当てられている用語ですが、英語だと「selective entrainment」というようにエントレインメントへフォーカスが当てられています。確かにエントレインメントは適切な訳語が無いとはいえ「選択的エントレインメント」といった方が本質を捉えており伝えやすいと思っているのですがどうでしょうか。

完全に記事を書くことを忘れていたため午前4時に急造した記事です。若干の粗があるかと思いますがお許しください。記事はこれからも計画的に製造していこうかと思います。それでは。

Writer

Osumi Akari