メルト包有物とマグマの揮発性物質

マグマをそのまま地上にお届け / 2022-12-26T00:00:00.000Z

マグマにはどのような成分が含まれているのか気にしたことがありますか。ドロドロに融けているということは知りつつも、マグマが具体的にどのようなもので出来ているのか考えたことすらないという方が大半でしょう。またこれを思ったことがある人でも、どのようにマグマの中身を調べればいいのか想像もつかない方がいるということも、簡単に想像できます。

というわけで今回はマグマの成分を考える際に重要な「メルト包有物(melt inclusions)」について大まかに見ていきたいかと思います。

結論

  1. 結晶中に含まれた地中深くのマグマ
  2. 脱ガス以前のマグマの情報

マグマとガス

とあるものの中にどのようなものが含まれているのかを考える際にうっかり見落としがちですが、その「どのようなもの」の中には気体が含まれている場合が多々あります。マグマがどのようなものかを考える際に、噴火などで地上に上がってきたものを見ればいいと思う方も多いかもしれません。

しかしマグマには気体となって抜けてしまう成分があると考えられている他、温度・圧力状況の変化によって性質が本来のものでなくなってしまっているものがあります。そのため少しでもマグマの性質をより正確に知ろうとするためには、可能な限りそうした環境の変化を受けていない物を手に入れることが求められます。

メルト包有物

ところで南極の氷には大昔の空気が含まれているという話を聞いたことはあるでしょうか。南極の氷は圧縮された雪由来のものが多いのですが、雪が積もっていく際にはその間に空気が入ってしまうことがあります。この空気が氷になる過程において気泡として残ることによって、その空気は氷の中に保存されます。そのようにして保存された空気は過去の大気のいわば「生データ」となり、現在の私たちへ過去の環境を教えてくれます。

マグマにも気体としての形ではありませんが似たようなものがあります。これが今回紹介させていただく「メルト包有物」です。火成岩の一種である火山岩はマグマが急速に冷却されて作り出されるものですが、その際にケイ酸塩が周囲に形成された(その環境内においてケイ酸塩よりも融点の高い)鉱物に囲まれてしまうことがあります。ケイ酸塩はここから温度がさらに下がるとガラス質の鉱物になるのですが、そういった鉱物になる際に気体を外に押し出します。しかし押し出される先もまた先述の鉱物に囲まれていますので、含まれている気体がそこに閉じ込められます。こうして形成されるのがメルト包有物です。

火山ガスそのものでも地表に出てくることがあるのでこれを分析したらよいのではないかと考える方がいらっしゃるかもしれません。しかしこういったガスは多少なりとも地上の空気と混ざってしまう他、地下の熱水などによって様々な変化が加えられています。そのため全く参考にならないとは言いませんが地下の様子を正確に知ることの役に立つとはいえません。これに対しメルト包有物はある程度地下の環境をそのまま伝えています。そのためマグマがどのようになっているか解析するための重要な資料となります。

参考文献

  • 斎藤元治「マグマ中の揮発性物質の挙動とマグマ上昇・噴火プロセス: メルト包有物からのアプローチ」『火山』第50巻特別号、S177-S192ページ、NAID: 110004702879、DOI: 10.18940/kazan.50.Special_S177

関連リンク

  • 篠原宏志、斎藤元治、松島喜雄、川辺禎久、風早康平、浦井稔、西祐司、斎藤英二、濱崎聡志、東宮昭彦、森川徳敏、駒澤正夫、安原正也、宮城磯治「メルト包有物」『火山研究解説集: 薩摩硫黄島』、産総研地質調査総合センター、2008年。

最後に

前回のざっくりわかる火山シリーズ: 料理された変成岩

この分野にはあまり明るくないのですが、そう言えば記事にしてなかったと思ったので取り敢えず記事を立ててみました。直接手の届かないマグマについて知るために取られているアプローチの内の1つですが、何かの参考になれば幸いです。

Writer

Osumi Akari

Category