「Web3.0の教科書」の第4章から第6章を読む

これは分散化されている金融サービス!(多分) / 2023-02-09T00:00:00.000Z

「Web 3.0」と名乗るプロダクトがあまりに多いせいで、Web 3.0が何なのかよく分かっていない皆様も多いと思いますが、私もその一人です。というわけでWeb3.0の教科書と名乗る書籍を購入し読み進めています。これらの章ではイーサリアムとDeFiやステーブルコインなどの話題が取り扱われています。ブロックチェーンを主軸として発展してきた近年の仮想通貨らしく、金融の話題がメインとなっています。あまり金融のことについては詳しくないので誤っている箇所もあるかと思いますが、その際はお手柔らかに指摘していただければ幸いです。

では読んでいて引っ掛かった点について書いていこうかなと思います。

結論

  1. 「AWSやGCPと同じ機能を提供するBaaS(本文ママ)」
  2. イーサリアムは次世代インターネット?
  3. 分散されている仕組みであれば、どんな内情でもDeFiを名乗れる

AWSやGCPと同じ機能を提供するBaaS

「ほにゃらら as a Service」と名乗るよく分からないプロダクトが世の中に氾濫しているので、「○aaS」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。ここにおいて「Banking as a Service(BaaS)」というのは「サービスとしての銀行」、すなわち資産の保全や送金といったものをサービスとして使用できるようにしたものを指します。しっかりとした定義はないのですが、昨今流行しているQR決済サービスや(ブロックチェーンの有無は問わず)仮想通貨がBaaSに含まれるとされています。

ところでAWSGCPという一般に「クラウド」と呼ばれているものは、企業の保有する大量のコンピューターリソースを、必要とするタイミングで都度課金しながら用いることが出来るサービスのことです。VMの作成に留まらず特定のユースケースに最適化されたプロダクトを高速に実行できる環境まで用意し、ユーザーにとって利便性の高いサービスと大量のカタカナ語を供給しています。

なぜ急にクラウドの説明をし始めたのかと疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、筆者は「BaaSはAWSやGCPと同じ機能を提供する」と主張しているからです。当該部分を引用します。

BaaSは、スマコンのような「ブログラムを載せる場所」として世界中で発展し、分散されています。インターネットでいうと、 改ざんすることの出来ないAWS(Amazon Web Services)やGCP(Google Cloud Platform) のようなものに該当するでしょう。データを保存する「ストレージ」としてではなく、プログラムを実行する「 コンソール 」としての役割を果たすのです。(p.99)

意味が分からない文章ではあると思うのですが、ここでBaaSと書かれている部分を「イーサリアム」と読み替えてあげると意味がすんなり通るかと思います。あくまで最大限の好意的に見た個人的な解釈ですが、筆者はイーサリアムに関する議論のことを一般化しようとして本来イーサリアムの重要ではあるもののあくまでその機能の1つである暗号通貨としての側面を「BaaS」と表現し、これが編集の方の目をすり抜けて掲載されてしまったものではないでしょうか。そうではない限り、「教科書」を書かれるような方がBaaSとクラウドサービスを同列で比較することは多分無いと思うので。

次世代インターネットの基盤

前回の記事で「ブロックチェーンと言いながらビットコインばかり注目していないか?」ということを書かせていただきましたが、1つの章を割かれてイーサリアムについて解説されています。後ろまで読んでみると結局ビットコインに回帰してしまっているのであまり納得感はないのですが、ビットコイン"ばかり"というにはちょっと違うような気がしてしまいました。

そのイーサリアムについて第4章で詳しく触れられているので読んでいきましょう。筆者はイーサリアムは「次世代インターネットの基盤」であるとしています。具体的にはイーサリアムには以下の基盤としての機能があると指摘しています。

  • 大量の資産
  • 強固なセキュリティ
  • 盛んなコミュニティ
  • 強い分散性
  • 代替性の低さ

基本的にこれについては同意せざるを得ないのですが若干の問題があるので、問題点が存在しないわけではないわけではありません。このサイトをご支援してくださる方がイーサリアムで私に送金できるようにしたこともあり、イーサリアムの問題を書くのは若干心苦しいところも無いことは無いのですが、「基盤」とまで表現されているものの問題を無視するわけにはいきませんので、一応書いておこうかと思います。イーサリアムというのは1つのネットワークを形成しているのですが、1つ1つのトランザクションを承認したという記録をネットワーク全体で共有しておく必要があります。そのためトランザクションを捌ける量にどうしても限界が生じてしまい、多数の人々がネットワークに参加してしまうと恒常的にトランザクションを捌ききれなくなってしまい、ネットワークとしての機能が満たされなくなってしまいます。もちろんこの点については書籍内でフォローされており、PolkadotCOSMOSSolanaなどについて紹介されています。純粋に安心しました。

というよりもイーサリアムを基盤とするものが「次世代インターネット」でありその「基盤」と自然に説明されているのが微妙であると思いました。序章で「Web2.0とWeb3.0のインターネットは共存するもの」であり「Web3.0のよくある言説として『Web3.0はWeb2.0の進化版』や『Web3.0はWebの新技術』といったものがありますが、これらは誤解」であるとしている割には…という気持ちになってしまいました。インターネットは相互に同一のプロトコルを用いるコンピューター間のネットワークであるのに対し、イーサリアムは(ハードフォークの問題を無視するのであれば)同一の内容をブロックチェーンを保有している必要があるという時点で大きくネットワークとしての性質が異なるのに、これを無視して議論が進んでいるのは乱暴であると感じます。

レイヤーという話

閑話休題、という程長々と書いてはいませんが気になったことがあったので一応セクションを分けて真面目な解説をしていこうかと思います。この本を読んでいる上で「レイヤー」という言葉の指すものの違いについての説明が(想定読者を鑑みれば当たり前ではあるものの)あまり既存の技術に興味がある人々にとっては若干の混乱をもたらすものであると感じたので、その説明を軽く書かせていただきます。

ネットワークにおける「レイヤー」と聞くと、私のような「Web 3.0以前の人々」からすれば、OSI参照モデルTCP/IPモデル(DARPAモデル)を思い浮かべるでしょう。ところが先進的でリッチで他者に対して寛容な「Web 3.0の人々」からすれば違うものを指すそうです。生きている世界が全くもって違うのでしょう。

イーサリアムを中心とするレイヤー

Web 3.0を生きる人の「レイヤー」の一例として上に挙げたイーサリアムを中心とするものがあります。イーサリアムを中心として様々なブロックチェーンが伸びており、それぞれがイーサリアムを部分的に用いる形、例え信頼性の提供であったりとか計算能力の利用であったりという形で関係しています。一般的に上位のレイヤーは実際のアプリケーションに用いるのに容易であるものを、下位とされるレイヤーはそのインフラとして用いられたり他のブロックチェーンとの関連性を確保したりするために用いられます。またサイドチェーンというものはイーサリアムが存在しなくとも単体で存在しうるブロックチェーンのことで、イーサリアムを利用こそしているものの、本質的な機能としては独立しているものを指すようです。多くの場合はGas代を低廉にしたり特定用途に特化したりするためのブロックチェーンです。例えば「Ronin」というブロックチェーンはあの「Axie Infinity」で用いられています。

こう聞くと私たちに優しい「レイヤー」と似たような関係性があるようにも感じられるかもしれない物であると思えるようになりうると思います。以上のようなものがWeb 3.0関係のドキュメントをイライラしながら読むために必要とされる見方であると思います。

分散金融

第5章においてはDeFi(ディーファイ、Decentralized Finance)というブロックチェーンを活用した金融サービスの形態について説明されています。解説されていることに間違いはないとは思わないのですが、DeFiが持っている大きな問題に触れられていないと感じたので簡単に書いていこうかと思います。

DeFiというのは分散化されているということは名前から分かると思います。明瞭に中央集権的なCeFiとは異なり、仕組みとして分散化されていることが保証されているように見えるので安心感があるかと思います。しかしながらDeFiはその運営者が明瞭ではないことが多く、特に小規模なDeFiに関してスマートコントラクトの担保として「分散」がある場合は、その実態が分散されていなかったとしてもそれを検出することが難しいのではないでしょうか。預入に対してトークンを発行し、求めに応じて兌換することを約束するスタイルのDeFiでは運営者による持ち逃げが容易に起こりうるものとなってしまいます。この形を取らないUniswapなどのプラットフォームでも、手数料の設定をDeFi(に限らない問題ではあるものの)ネットワークの運営者が自由に決められうるものとなっており、信頼できるかどうかを利用者自身が本当に念入りにチェックする必要があると考えられます。またただでさえ既存の金融ルールと相性が悪い、特定の管理者によらないブロックチェーン上の金融ですが、互いの確認無しに多額の資金洗浄を行えうるDeFiは特にその問題が大きくなってしまいがちです。そのためDeFiを利用するためには経験と情報が必要となってしまい、初心者が容易に手を出せるものではなくないものになってしまっています。

最後に

ようやく章ベースで半分読むことが出来ました。頑張って残りも読み進めてみたいと思います。

Writer

Osumi Akari