アクセンチュアは、世界で最も大きいコンサルティングファームの1つとされている企業で、世界各国で様々なサービスを行っています。経営コンサルティングを主力としながら、近年のコンサルティングファームと同様にITシステム開発にも強みを持っているとされています。
このアクセンチュアは官公庁とも取引があり、公式サイトにある通り多種多様なシステムの開発に関係います。そのような アクセンチュアが、9月26日よりデジタル庁から指名停止 となりました。この記事ではデジタル庁の発表資料(PDF)等を基に、その原因等について簡単にまとめます。
結論
- アクセンチュアが9月26日から来年1月25日まで、デジタル庁から指名停止
- 承認の必要があることを認識しておきながら、承認なしの再委託等を行ったことが理由とされている
- 原因となった案件は総額200億円を超えるが影響は不明
前提
簡単にですが、前提となる情報を整理しておこうかと思います。概略を示しておりますので、細かい部分では異なりますが、何卒ご容赦ください。
指名停止
各省庁や地方公共団体などの公的機関は、民間に何かを発注する際には原則として「一般競争入札」を行わなければならないとされています。これは会計法において定められているもので、予算を適正に執行するために求められるものとなっています。もちろん「原則として」であるため、そうではない場合があり「指名競争入札」や「随意契約」といった手法においても公的機関は民間へ何かを発注することが可能です。
また、公的機関は民間企業等が贈賄や不正行為、安全に配慮していないことが発覚した場合等において、そういった企業に仕事を出さない「指名停止」を行うことが可能です。これらの措置はルールを守っていない企業に「安いから」という理由のみで発注するということを抑止するという機能があります。一般的に指名停止が行われた場合は、その旨が公表されます。
指名停止は一定期間行われ、その長さはケースバイケースです。当たり前ではありますが、公共セクターからの受注が多い企業であった場合指名停止の影響が大きくなる傾向にあります。例えば2018年3月に200以上の地方公共団体から指名停止を受けたゼネコンのエム・テックは、資金繰りが急速に悪化したため同年10月に民事再生手続きの開始決定を受けることとなりました。
承認なしの再委託
再委託というのは、要するに自分の受けた仕事を他者へ(全部でも一部でも)もう一度振るということを指しています。IT業界では一般的な慣習ですが、契約上問題となりやすい問題(参考)です。
何かしらのシステムが発注された際、究極的には完成さえすれば誰が開発してもよいので、特に記載が無ければ仕事を受けた側が自由に再委託を行っても問題はありません。しかし、品質や機密性の管理という点などから、多くの契約においては発注者の承認を必要とする条項が設けられています。この条項がある場合、当然ながら発注者の承認がない再委託が行われれば、契約違反となります。
アクセンチュアがデジタル庁から指名停止
以上を前提として、今回の事象を見てみましょう。2025年9月26日、デジタル庁のWebサイト上にある「競争参加資格停止・指名停止情報」が更新され、アクセンチュアが4ヶ月間の指名停止を受けたことが明らかとなりました。
同時に発表されたPDF資料によると、以下の理由によって指名停止を行ったとのことです。
上記有資格業者は、令和6年4月1日付で契約した「2024年度(令和6年度)情報提供等記録開示システムに関する設計・開発及び運用・保守業務一式」や情報提供等記録開示システムに関する2023年度(令和5年度)以前の同様の契約案件の履行に際して、契約書に定める再委託等の申請を行うことの必要性を認識していたにもかかわらず、A社他数社へデジタル庁の承認を得ずに再委託等を行うなどにより、事実を偽って業務を遂行していた。このことは、「デジタル庁における物品等の契約に係る指名停止等措置要領」別表2「贈賄及び不正行為等に基づく措置基準」の14「不正又は不誠実な行為」に該当するものと認められる。
行政の書く日本語ですので、若干分かりにくい部分はありますが、「 契約書に定める再委託等の申請を行うことの必要性を認識していたにもかかわらず、A社他数社へデジタル庁の承認を得ずに再委託等を行うなどにより、事実を偽って業務を遂行 」という部分が重要です。上にも書きました通り、契約において再委託を行う際は発注者の承認が必要とされる条項が含まれる場合が多く、デジタル庁とアクセンチュアとの契約にも盛り込まれていたと思われます。
しかし、これをアクセンチュアが認識しつつ、承認を得ずにアクセンチュアが再発注を行ったことが発覚したということです。これはデジタル庁曰く「不正又は不誠実な行為」であるとされ、指名停止となりました。
これによって、アクセンチュアは2025年9月26日から2026年1月25日まで、デジタル庁が行う指名競争入札に参加できなくなりました。デジタル庁が行う指名競争入札は、必然的にある程度の規模を持つシステム開発となるかと思いますので、アクセンチュアはこの期間これらに新たに参加することは出来なくなってしまうということになります。
なお、原因となった「2024年度(令和6年度)情報提供等記録開示システムに関する設計・開発及び運用・保守業務一式」は、アクセンチュアが約47億円の(公募の)随意契約で受注した案件で、合わせて保守契約を169億4000万円で受注しています。この 総額200億円を超える契約がどうなるかは不明 です。
ただ、リンク先でも指摘されている通り難しい案件であり、実質的にアクセンチュア以外が受注できない案件となっている可能性があります。デジタル庁の担当者は「調達に係る問題の大きなものの一つとして変更契約を挙げており、変更金額の幅が4割を超えないことや2回以上の変更は行わないことを原則とするルールを策定し、原則から外れるものは真に必要性があるか細かくチェックを行っている」としていますが、どこまで影響を少なくできるかは現状不明です。
最後に
再委託に関する問題は基本情報技術者試験に出てくるレベルでしばしば発生する問題であり、この原因となった事象は何というか「よくあることだな」という感情しかありません。しかし、外部からはこの事象が「うっかり」によるものなのか、アクセンチュアによる意図的なものであったのかは区別できないものの、万が一後者であった場合はコンプライアンスを問われてもおかしくない問題です。
この問題が発覚し指名停止を出したのがデジタル庁という、ある種日本の行政における「ITの司令塔」というべき省庁ですので、単なる再委託に関するトラブルだけではないインパクトがあります。場合によってはこれによって他の公的機関がアクセンチュアと結んでいる契約に関して確認を行い始めることが想定されます。そのため、しばらくの間は同様の問題がアクセンチュア周りで出てこないかを気にすることとなるかと思います。