2024年5月に行われた放送法改正に伴って、NHKが行う必要のある業務の1つに「配信」が追加されました。これは「放送番組その他の情報を電気通信回線を通じて一般の利用に供することであつて、放送に該当しないもの」のうち、後述するものを指します。これは改正から1年半程度経った2025年10月1日に施行されました。
これに伴ってNHKは「 NHK ONE 」と題したサービスを開始し、地上契約がある人々に対して追加負担無しで利用できるようになりました。しかし、これによってこれまで無料で使用出来たサービスがそうでなくなったり、分かりづらい案内によって地上契約を結んでいないと使えないような表示となってしまっています。この記事では、本日開始された「NHK ONE」に関連した問題やトラブルを簡単にまとめていきたいと思います。
結論
- 放送法改正に伴ってNHKの業務に「配信」が追加された
- NHKニュース(旧: NHK NEWS WEB)だけを使用する場合でも地上契約が必要そう
- アカウント登録に必要な認証コードが届かない問題も
放送法とNHK
NHK(日本放送協会)は言わずと知れた特殊法人で、放送法でその立ち位置が示されています。
第十五条
協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送番組及び番組関連情報の配信並びに放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。
これは現行の放送法であって、少し前までは「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うことを目的とする。」といった条文であり、現行のものには「 放送番組及び番組関連情報の配信 」が追加されています。
これが行われたのは2024年に行われた放送法の改正で、この「放送番組及び番組関連情報の配信」というのがいわゆる「NHKのインターネット配信業務」です。一応法律の規定としてはインターネットでなくとも良い(電気通信回線を通じて、としか定められていない)のですが、事実上インターネット上でユーザーの求めに応じて送信可能とする業務のことを指しています。
この「インターネット配信業務」というのにも2種類あり、放送法第20条で定められているNHKが必ず行わなければならない業務(必要的業務)と、放送法第20条2と3で定められている必ずしも行わなくてもよい業務(任意的業務)があります。この区別に関してはちょうど10月からの「インターネット活用業務実施計画」及び「任意的配信業務実施計画」の説明資料の3ページに分かりやすい図があるので参考にしてください。
このうち必要的業務として、10月1日に施行された放送法では以下のものが挙げられています。見やすいように箇条書きを施しました。
- 一 次に掲げる放送による国内基幹放送(特定地上基幹放送局又は次条第三項に規定する基幹放送局提供子会社の中継地上基幹放送局(第九十一条第二項第三号に規定する放送系において他の放送局から放送をされる放送番組を受信し、その内容に変更を加えないで同時にその再放送をする地上基幹放送の業務に主として用いられる基幹放送局をいう。以下同じ。)を用いて行われるものに限る。)を行うこと。
- イ 中波放送
- ロ 超短波放送
- ハ テレビジョン放送
- 二 テレビジョン放送による国内基幹放送(電波法の規定により協会以外の者が受けた免許に係る基幹放送局を用いて行われる衛星基幹放送に限る。)を行うこと。
- 三 協会が放送する全ての放送番組(著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第九号の七に規定する著作権者等その他の配信に係る許諾の権利を有する者から配信の許諾を得ることができなかつたものその他配信をしないことについてやむを得ない理由があるものを除く。次号において同じ。)について、放送と同時に当該放送番組の配信を行うこと。
- 四 協会が放送した全ての放送番組について、放送の日から総務省令で定める期間が経過するまでの間、当該放送番組の配信を行うこと。
- 五 協会が放送する又は放送した放送番組の全部又は一部について、第二十条の四第一項に規定する業務規程に定めるところに従い、番組関連情報の配信を行うこと。
- 六 放送及びその受信の進歩発達に必要な調査研究を行うこと。
- 七 邦人向け国際放送及び外国人向け国際放送を行うこと。
- 八 邦人向け協会国際衛星放送及び外国人向け協会国際衛星放送を行うこと。
これらのうち三~五というのがいわゆる「インターネット配信業務」で、三と四は以前の「NHKプラス」、五は以前の「NHK NEWS WEB」等に当たるものです。ここで注意するべきは、ここの必要的業務に入っているからと言って、必ずしも受信料の根拠とならないということです。これに関しては中波放送(AMラジオ)、超短波放送(FMラジオ)が入っていることからも明らかだと思います。
受信契約と「NHK ONE」
しかしながら、現状「NHK ONE」のサービスサイトにアクセスすると、「ご利用にあたって」といった通知が大きく表示され、通知の内容を確認しなければ先に進めないようになっています。さらには、これまで受信契約を全く求められなかった「NHKニュース(旧: NHK NEWS WEB)」にアクセスした際においても同様の通知が大きく表示されてしまいます。
ここにおいて、「すでに受信契約を締結されている場合は、別途のご契約や追加のご負担は必要ありません。受信契約を締結されていない方がご利用された場合は、ご契約の手続きをお願いします」と明瞭に契約の義務があるかどうか不明な書き方をされています。また、この内容を「確認」して次の画面に移行すると以下の画面が表示されます。
ここにおいては用途(個人用・事業者用・学校用)と、NHKの放送局に対応した地域を選択するように求められています。これらを読むと、賢い方々にとっては「必ずしも NHK ONEを使用するために受信契約を結ぶ必要がないのではないか ?」と思うかと思います。いくらインターネット配信業務が必要的業務となったとはいえ、テキストを読む場合においても受信契約が必要というのに納得できる方は少なくないでしょう。
しかしながら、2024年5月の放送法改正によって「NHK ONE」を使用するために受信契約が必要とされています。改正された放送法を見ていくと、以下の条項が目につきます。
- 第六十四条 次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。
- 一 特定受信設備を設置した者
- 二 特定必要的配信の受信を開始した者
- 2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる者は、協会との受信契約の締結を要しない。
- 一 住居内設置等を行つた者のうち、次のいずれかに該当するもの
- イ 他の住居内設置等について既に前項の規定により受信契約を締結している者
- ロ 当該者と住居等及び生計を共にする者が他の住居内設置等について既に前項の規定により受信契約を締結している者
(中略)
- 8 この条において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
- (中略)
- 五 住居内設置等 次のいずれかに該当する行為
- イ 特定受信設備を住居等に設置すること。
- ロ 特定必要的配信の受信を開始すること(認可契約条項で定める基準に照らし、他の者(自己と住居等及び生計を共にする者を除く。)に視聴させ、又は閲覧させることを目的としていることが明らかであると協会が認める場合を除く。)。
若干読みにくいですが、「特定必要的配信の受信を開始」した際は協会(NHK)と受信契約を結ばなければならないと定められています。この「特定必要的配信」とは放送法第20条の3において、以下のように定められています。
第二十条の三 (中略)
9 協会は、必要的配信業務を行うに当たつては、必要的配信(ラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第六十四条第八項第三号ロ及び第百二十六条第一項ただし書において同じ。)、多重放送、国際放送又は協会国際衛星放送の放送番組及び当該放送番組の番組関連情報の必要的配信を除く。以下この条及び第六十四条において「特定必要的配信」という。)の受信を開始しようとする者に対して通信端末機器の操作を求める措置その他の特定必要的配信の受信を目的としない者が誤つてその受信を開始することを防止するための措置を講じなければならない。
すなわち「特定必要的配信」とは、必要的配信のうち、ラジオ・多重放送・国際放送・協会国際衛星放送の番組と番組関連情報を除いたものを指しています。言い換えると少なくともテレビの番組とその番組関連情報のことを「特定必要的配信」としている、と言えます。この「特定必要的配信」の受信を開始した人は、NHKと受信契約を結ばなければならないとされています。そのため、一般論としては受信を開始した場合においてNHKと契約を結ばなければならないということです。
ちなみに現在NHKが受信者と締結している「日本放送協会受信規約」においては、NHK ONEのみを利用する人々を想定しており、
第1条 日本放送協会(以下「NHK」という。)の行なう放送またはNHKの配信(国内テレビジョン放送の放送番組の同時配信および放送日から一定期間行なわれる配信ならびに番組関連情報の配信に限る。以下同じ。)の受信についての契約(以下「受信契約」という。)を分けて、次のとおりとする。
(中略)
3 NHKの配信の受信を開始(通信端末機器の操作を行ないNHKの配信の視聴または閲覧を開始することをいう。以下同じ。)した者は地上契約を締結しなければならない。なお、NHKは、NHKの配信の受信を開始しようとする者に対して、利用の意思を確認するための措置として通信端末機器の操作を求めるものとする。
と定められています。このため、NHKの方においても「NHKニュース」のみを利用する人からも地上契約の締結を求めるものとみられます。もっとも、「利用を開始する」というものをクリックしたということが「受信を開始した」と同一かどうかは議論の余地があります。今後、NHKがNHK ONEのみを利用している人に対して積極的に受信料を求め始めた際に議論が活発化するものと考えられます。
認証コードを送信していた「 mail[.]nhk 」がブラックリスト入り
NHKはこれまでの各種オンラインサービスの多くを10月1日に移行しました。これに伴って「NHK ONEアカウント」を用いた認証が求められるようになり、NHKプラスを利用していた場合はアカウントの移行、そうでない場合はアカウントの開設が必要となりました。
9月30日まで移行しなくとも問題なく使用でき、NHK側も明瞭なアカウントの開設の案内を行っていなかったようです。しかし、10月1日となり「ニュース・防災アプリ」を利用していた人には移行案内が大きく表示され、移行を求められたユーザーは一挙に「NHK ONEアカウント」の登録を行ったものと思われます。
ここにおいて、「NHK ONEアカウント」はその他のWebサイトのアカウントと同様に入力されたメールアドレスが本当に使用可能かどうかを確認するため、「認証コード」を入力されたメールアドレスへ送信を行っています。しかしながらこの「認証コード」が届かないといった問題が発生し、NHKは一時的にアカウント登録無しでNHK ONEの機能を使用可能としました。この原因として、これまで利用の実績がなかったドメインである「 mail[.]nhk 」を認証コードの送信に利用したということが考えられます。代表的なブロックリストであるSpamhausのDBLにも登録されているようで、これでは認証コードが届かないという人がいっぱいいても仕方ないものです。
メールの送受信の実績がないドメインから急に大量のメールが送信されると、多くの場合「スパム」として判断されます。これは近年Gmailがスパムへの対応をより強化したことから問題として顕在し始めた問題で、2024年の1月には神奈川県の高校入試出願サイトで同様の問題が発生しています。この問題と類似した理由で発生したということは、直近事象にすら学んでいないということになり、今後のサービス提供に不安を持たれてもしょうがないと言えるでしょう。
関連リンク
- NHKネット配信の必須業務化 改正放送法が公布 - 民放online
- NHK ONE ニュース・防災アプリ【ダウンロードはこちら】速報や天気予報 ライブ配信も新しいアプリで - NHKニュース
- NHKの新ネットサービス「NHK ONE」初日から一部で不具合…新規利用登録できず - 読売新聞オンライン
最後に
個人的に配信はどう考えても通信だと思っているので、こうした条項が放送法に入っているのは正直あまり納得がいっていません。そしてインターネット関連業務を必要的業務へ入れつつ、受信料というスタイルを改めなかったことは今後とも余計な混乱を生む元凶となっているような気がしてなりません。
NHKの存在意義は十分理解しているつもりですが、このようにややこしい方法で無理に受信契約を求めるというやり方は、あまりいい気持ちがするものではありません。NHKは中途半端に理屈を飛ばして契約を求めるのではなく、このような形で「なぜ受信契約が必要なのか」の規則について丁寧に説明する必要があるかと思います。この記事が、「なぜ受信契約を結ばなければならないのか」という疑問を持った方の参考になれば幸いです。