Morpho上のVault「Steakhouse PaoTech JPYC」が非推奨に、運営企業による告知は無しか

DeFi「Morpho」上でJPYCを扱うVaultが消滅し、Morpho上でJPYCを扱うことが困難に / 2026年08月10日

Morphoは、特定の管理者がスマートコントラクト上で管理する資金プール(Vault)に資産を預け入れ利息を得たり、資金を借り入れたりすることが出来るDeFiサービスの1つです。Aaveなどと類似したサービスですが、そのシンプルさなどから利用者を近年集めています。

2026年1月より、Morpho上でPaoTechLab及びSteakhouseによるVault「Steakhouse PaoTech JPYC」が本格的に提供開始されており、JPYC保有者は預け入れることにより、自動的に利息を得ることが可能となっていました。しかし、2026年7月下旬より、非推奨化されているとの報告があり、新規の預け入れは推奨されていません。この記事ではその概要と必要な対応に関して簡単にまとめます。

結論

  1. 7月24日前後よりMorpho上のVault「Steakhouse PaoTech JPYC」が非推奨に
  2. 公式より明瞭なアナウンスは行われなかったとみられる
  3. JPYCから利息を得られる同様のサービスであるBTCFiやUniFiとは無関係か

Steakhouse PaoTech JPYCの非推奨化

Morphoとは

初めに、「Morpho」の構造に関して簡潔に説明する必要があります。Morphoは2022年より開発・運営が続けられているDeFiプラットフォームであり、誰でも資産を預け入れて利回りを得たり担保を提供して別の資産を借り入れたりすることが可能です。一方、資産を預け入れたり貸し出したりするための「Vault」は理論上誰でも開設しえますが、Morphoフロントエンドでの掲載には適切なタイムロック長やロール構成などが求められており、安全策が取られています。この他、権限の分かれた複数ユーザーによる運用の変更を可能としていたり、リスクを下げるための資金のアイドル化やキャップを引き下げる行為は簡単に行えるが、反対の行為はタイムロックなどを通して意図的に困難とするなどといった対策も盛り込まれています。

そして運用の変更などに関してはブロックチェーン上で記録される形で行われており、一定の知識があれば誰でも検証できるような構造が確保されています。Morphoのイメージとしてはスマートコントラクト上で資産の運用を安全に行うための強力なツールを提供するプラットフォームです。

Morpho上では米ドル建てステーブルコインプロジェクト「Resolv」において発生したクラッキング問題に伴う損失が発生するといった事件はありましたが、これはMorphoそのものの欠陥ではなく、Morpho上で運用を行っていたキュレーターのリスク管理の問題として扱われるものです。Morphoそのもののスマートコントラクトは様々な視点での監査を受けており、スマートコントラクトの欠陥による問題の発生を可能な限り抑える努力が行われています。

Steakhouse PaoTech JPYC

2026年8月10日時点での「Steakhouse PaoTech JPYC」Vaultのスクリーンショット。Vaultが非推奨である旨の表示に加え、対USDC・WETH・WBTC各市場がリストアップされていないとの警告が表示されている

Steakhouse PaoTech JPYCは、このMorpho上で多数のVaultを運用している「Steakhouse Financial(以下Steckhouse)」と、シンガポール企業である「PAO TECH Labs」によって運用される、日本円と1:1で連動している電子決済手段の「JPYC」を預け入れるVaultでした。預け入れられたJPYCは、USDC・WETH・WBTCいずれかを担保として利付きで貸し出され、JPYCを預け入れたユーザーはその利益から利回りを得るという仕組みを持っていました。

しかしながら上述の通り、記事公開現在においては非推奨化されており、少なくとも新規のJPYCの預け入れは推奨されていない状態となっています。また、「Steakhouse PaoTech JPYC」はMorpho上でJPYCを扱う唯一のVaultであったため、非推奨化に伴って、WBTC/JPYC・WETH/JPYC・USDC/JPYCの各ペアにおいて市場が成立しない状態となってしまっています。

公式ページにおいて、JPYCを預け入れたユーザーは年利換算で14.15%の利率が得られると(本格提供前の)1月24日時点では表示されていましたが、その後需給の安定化に伴って1%弱の利率を得ることが出来るとされていました。利率が安定するに伴って徐々に預け入れられているJPYCが増加し、記事公開時点では非推奨化された後も約1390万JPYCが引き続き預け入れられていることが確認されています。

2026年8月10日時点での「Steakhouse PaoTech JPYC」Vaultのスクリーンショット。総預け入れ量及び年利換算利率の変動が示されている

SNS上の投稿には、7月24日前後からわずかながら「Steakhouse PaoTech JPYC」について言及しているものがあります。この時期のVaultのコントラクトの動きを見ると、流動性キャップの変更(Set Liquidity Adapter And Data)と具体的な資産振り分けの変更(Multicallの一部)が変更されている様子が確認できますが、一定の意図を汲みとることが難しいものとなっています。

公式からのアナウンスは無しか

運用を担うSteakhouseSubstack及び公式Xアカウント(@SteakhouseFi)において周知を行っており、2025年12月にはJPYCの取り扱いを開始した旨の告知を行っていました。しかしながら非推奨化前後の7月21日の投稿及び7月28日の投稿において、JPYCに関する言及はありません。PaoTechに至っては、公式Xアカウント(@PAOTECHLabs)が2月以降アクションを行っている形跡がなく、足取りを追うことが難しい状態になっています。

先述のSNS上の投稿からも、公式からのアナウンスが行われていないことは明らかであり、7月24日前後に非推奨化・(Morpho側での)リスト非掲載化が行われたことが一般ユーザーからの情報でようやく明らかになるような状況です。Steakhouseに関しては非推奨化後も運用上の調整を行っている様子がオンチェーンで確認できるためお知らせが無くとも問題ないかもしれませんが、PaoTechに関しては開始時に積極的なプロモーションを行った以上、運用の非推奨化について何らかの言及をしてもよいのかと思います。

JPYCの運用

このようにして、Morpho上で運用されていた「Steakhouse PaoTech JPYC」は後味の悪い形で非推奨化され、Morpho上からもJPYCの扱いがほぼ無くなってしまいました。しかしながらこれによってJPYCの運用先がなくなったわけではありませんし、JPYCそのものの安全性が脅かされたわけでもありません。また、今回の非推奨化はMorpho上の「Steakhouse PaoTech JPYC」のみで起きたことであるため、その他のJPYC関連サービスに直接的な影響は及ぼさないものであると考えられます。

このセクションではJPYCを運用できるサービスをいくつか紹介します。運用先の安全性に関しては個々の判断におまかせしますが、参考になれば幸いです。

BTCFi

BTCFiはBiFrostによって運用が行われているサービスであり本来はビットコインの運用を主としたサービスですが、HashPort Wallet内から起動することによってJPYCを預け入れ年利換算4%を得ることが出来るレンディングを実施することが可能となっています。なお、HashPort WalletのみであるのはKYCの問題などに対応するためだとしています。

HashPort WalletにおいてPolygon上のJPYCを運用している方にとっては最も扱いやすいJPYCの運用方法だと思われます。2026年8月31日までに預け入れを行うとボーナス金利が付くキャンペーンが行われているため、検討してみても良いのではないでしょうか。

UniFi

UniFiはLINE NEXTが開発・運営を行うウォレットであり、Kaiaチェーン上のJPYCを取り扱うことが可能となっています。JPYCインタレストサービスにより、UniFiでJPYCを保有しているのみで自動的に年利換算2%分のJPYCが毎日付与されるものとなっています。

これに加えて10万JPYC以上をUniFi中に保有している場合、毎日「JPYCラッキーボール」が付与され、最大で5万JPYCが付与されるなどといったイベントも行われています。UniFi中に120万JPYC以上を保有している場合には「ゴールドラッキーボール」が付与され、より多額のJPYCが付与される可能性があるとされています。

Uniswap

Uniswapは単にスワップ用途で用いるだけではなく、誰でもスワップのための資産を預け入れることが可能となっています。例えばJPYCに加えてUSDCやETHなどの資産を合わせて預け入れることにより、手数料収入を得ることが出来ます。しかしながら価格変動リスクが大きいペアなどを預け入れた際や、極端に片方向の需要が大きいペアなどにおいては預け入れたものに見合うだけの資産を引き出すことが難しくなることがありますので注意が必要です。上2つにもリスクはありますが、Uniswapに関しては重要であるものの理解が難しい概念が大きく、慎重に流動性供給を行うことを強くお勧めします。

最後に

前回の技術に関する記事: 競プロサイト「AtCoder」がユーザー提出コードをAI事業者向けに販売へ、2026年8月から

Morpho上における「Steakhouse PaoTech JPYC」に関しては私のアドレスにプールしてあるJPYCの受動的な運用先として検討していたこともあり、個人的には残念なことだと思います。しかしながら非推奨化したことそのものよりも、それの周知が一切行われていないことの方がより残念な気持ちです。

Morpho上においてはキュレーター等が運用を終了した際に、自動的に預け入れられた資産などを返送する仕組みが存在しないため、ユーザーが気づかなければ運用も行われない上にオンチェーン上で動かないJPYCが1300万JPYCほど生まれてしまうことになります。Morphoそのものは素晴らしいと考えているため、Morphoにこのような「残骸」が放置されてしまうのが残念でなりません。

また、スタート時には華々しい宣伝を積極的に行うのに対し、クローズに関しては利用ユーザーにすら気づかれないような形で行うのは不誠実と言わざるを得ません。サービス開始時と同等のエネルギーを費やせとは言いませんが、少なくとも顧客たるユーザーに対しては誠意ある姿勢を取るべきなのではないでしょうか。

Writer

Osumi Akari

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