鳥取県で有害図書指定を受けるとECサイトも「健全」になる?

砂丘があれば「有害」指定は気軽に出来るっぽい / 2022-09-02T00:00:00.000Z

「Freedom of Speech」といった時の「Freedom」はどのように翻訳するべきでしょうか。「無料」と訳すべきと一瞬思ってしまうかもしれませんが、一般的には「自由」と訳されます。そのため「Freedom of Speech」という英語は「表現の自由」と訳せられます。

幸いなことに2022年の日本では表現の自由が制限なしに憲法第21条によって保障されています。とはいっても刑法第175条に定めるわいせつ物頒布等の罪や第230条に定める名誉毀損罪との関係もあり、一部の表現については制限がかけられています。また自治体によって定められている青少年保護育成条例によって、18歳未満の人々へ売ることが出来ない書籍というものも存在します。

この記事では鳥取県が定めた青少年保護育成条例に基づく会議とされるものによって「有害図書」とされてしまった、どこが青少年に対して有害かよく分からない本。それも指定されてしまったがためにAmazonで販売できなくなってしまった本について書いていこうかと思います。

※珍しく「怒り」が原因で書きなぐってしまったメモみたいな記事ですが、普段はざっくりわかる地球科学シリーズなどを流しているので許してください。

For English: Summary

Three books published by a Japanese publisher are no longer available for sale on Amazon. When the publishers asked Amazon why, Amazon replied that they could not sell the books because Tottori Prefecture (located northwest of Kyoto Prefecture) had designated them as harmful books.

The publisher asked Tottori Prefecture, "Why did you designate the books as harmful books? What made you deem it harmful?"

Tottori Prefecture responded, "We made a comprehensive judgment, so we cannot say specifically which descriptions are harmful or not. Tottori Prefecture then sent the publisher a PDF file containing a summary of the meeting, which is considered the "minutes" of the meeting.

The publisher protested this action and published the proceedings on the Internet.


Note: Japan is a country where freedom of speech is guaranteed by the Constitution.

結論

  1. 鳥取県で有害図書指定を受ける→ECサイトで販売できなくなる
  2. (鳥取県では)議事録は会議の概要と同義

香川式子育て

2020年に香川県で「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」という(少なくとも賛成した議員は素晴らしいと思ったであろう)条例が提案されました。この条例においては18歳未満の県民に対してゲームのプレイ時間を平日は1日当たり60分までとする 行動規範 規定(罰則無し)が含まれており、外部からものすごい批判があったものの残念ながら可決されてしまいました。

時間を制限する謎の規定を含んだ条例は「小学生の娘が友人たちと部屋に閉じこもりテレビゲームに没頭するのに驚き『ゲーム脳』を勉強し、問題を提起して」きた県議会の議長と、(なぜか日本新聞協会賞をもらっている)四国新聞のキャンペーンによって推進されました。

こんなサイトにアクセスしてきている方の大半はご存じだとは思いますが、「ゲーム脳」という概念は森昭雄さんという方が2002年に著書「ゲーム脳の恐怖」で提唱したものです。彼によれば前頭前皮質から出ている「β波(ただし一般的な定義とは異なる)」がゲームを行うことによって減少していることが独自開発した簡易脳波計と称するものより明らかに出来たとすることより、ゲームをすることによって知能が低下してしまうとされることが明らかとなったとされました。この知能が低下した状態のことが「ゲーム脳」と呼称されています。

胡散臭い香りがプンプンすることから薄々分かっていらっしゃるかとは思いますが、いわゆる「疑似科学」とされるものです。医師免許を私は持っていないので詳しいことは触れられませんが、詳しい矛盾の指摘はこちらのインタビューをご覧ください。というわけで疑似科学を学んで問題提起した県議会議長が新聞メディアの後押しもあって提出した「ゲーム条例」は、香川県なら通るということが示されてしまいました。

さらにはパブリックコメントの募集において、なぜか県庁内に設置されているパソコンからほぼ同じ内容の賛成コメントが大量に投稿されていたことも明らかになっています。この辺りの事情については瀬戸内海放送さんが制作され、YouTubeで公開されている「検証 ゲーム条例」及び施行後の変化を追った「検証ゲーム条例2」において、あくまで批判的な立ち位置からではあるもののざっくりと理解することが出来るかと思います。

このように議会では、ごくまれにとんでもない内容の条項を含む条例などが通過してしまう場合があります。そして鳥取県では見た目上大きな問題がなさそうに見えてしまう条項が通過したことと曖昧な運用から、表現の自由が脅かされる事態が発生してしまっています。

インターネット経由で有害図書購入は禁止

2020年11月13日、鳥取県では青少年健全育成条例の改正が行われました。青少年健全育成条例に関するページが鳥取県公式サイトにあったので改正の要点を見てみましょう。

(1)何人も、正当な理由がなく、青少年に対し、当該青少年に係る児童ポルノ等の提供を求めることを禁止し、違反者に30万円以下の罰金を科すことを規定。令和3年1月1日施行。

(2)有害図書類または有害玩具刃物類を青少年委販売等することを禁ずる規定について、インターネットの利用そのほかの方法により鳥取県内において当該行為を行ったすべての図書類又は玩具刃物類の販売等を業とする者に適用することを明示。公布日と同日施行。

青少年に対して児童ポルノを求める正当な理由を思いつくのに10秒くらいかかりましたが、今回の事件に関して重要になるのは下段の記載です。法律臭い表記(それはそう)で少しわかりづらいですが、要するに「青少年に対して有害とされるものを売ることを禁止する条項の対象にインターネットを追加する」といった内容です。

この改正はインターネットを用いた商行為の発展に沿ったものと捉えられるため、必ずしも無理のあるものとはいえません。しかしながら東京都青少年の健全な育成に関する条例に基づく都での不健全図書指定が、事実上全国での(オフラインに限らずオンラインでの)販売に影響を及ぼしてしまっていることなどから、慎重な運用を求められることは言うまでもありません。

議事録は概要

ところで鳥取県は非常に記録を重視しているらしく、何と表現の自由を狭める「有害図書制度」に係る会議の記録を残しているとのことです。

  • ニセ医学とその歴史を扱った本
  • 3Dプリンターの使い方を解説し、改造の楽しさを教える本
  • ネットで買える面白グッズを紹介する本

の3冊を有害図書とした会議の記録を見ていきましょう。上記3冊の出版社による問い合わせの結果「議事録」とされている書類のタイトルは「令和3年度第1回鳥取県青少年問題協議会有害図書類指定審査部会(会議概要)」。 議事録なのに「会議概要」 という安心感あふれるタイトルですが、内容を見れば印象は変わるかもしれません。

日時、場所、出席委員、行ったことは「閲覧による図書類の内容確認」、そして有害図書とした書籍一覧…

…あれ、これって議事録だよね???

もう一度見てみましょう。日時、場所、出席委員、行ったことは「閲覧による図書類の内容確認」、そして有害図書とした書籍一覧…

…常識的に見れば本当に会議概要といった文書です。これが行政が表現の自由を抑圧しているという極めて慎重に動くべきことに対して極めて適当な運用がなされているという解釈を避けるためには、鳥取県ではこのような文書が議事録とされていると考えるほかありません。

鳥取県の皆さん。議事録をどのように作成しているのか教えてください。

引用文献

関連リンク

最後に

鳥取県に限らない話ですが、メディアの受け手の一部がカスであるという根源的な問題を放置した上で、メディアの送り手の方を縛ってしまうようなスタイルのフィルター制度(スマートフォンのフィルタリング義務化とか)は様々な場所に存在します。「臭い物に蓋をしろ」といった感じで根本を変えないことは何の進歩も生まないことを意味するものであるということは、1歳児でも3秒考えれば分かることだと思うのですがどうでしょうか。

有害図書指定というものは、18歳未満の人々にとって事実上禁書に近しい性質を持っていると言わざるを得ないでしょう。憲法で保障されている表現の自由というものは、表現物の制作の部分だけではなくそれを読む人まで伝わって初めて**血の通った「自由」**となると考えています。そのため自由を縛る部分というものは可能な限り抑え、かつその理由を可能な限り明確な形で公表するべきだと考えています。

このように考えているため、以前から私は有害図書制度に対してその意義は強く否定しないものの、ある程度反発していました。上から頭ごなしに「これ、有害だから」としてカリギュラ効果を発生させるよりも、受け手が有害図書とされるものを読まなくてもいいようなコンテンツを供給したり、そもそも有害図書とされる書籍の多くはボリューム層が10代前半以下向けか?、というと怪しいため、適切なゾーニングを(押し付けるのではなく)小売店が行ったりすることによって、十分に教育的な効果も見込めるのではないかと思っています。ゾーニングを突破した上で文句を言う謎の人々がSNSにあふれている現在では難しいとは思いますが、その場のノリで自由を縛るよりはよっぽどいいでしょう。

「規制されるべき表現(しかしそれを規制する理由は概して曖昧)」がなぜ存在するのかといえば単純に需要があるからで、その需要を縛るのが難しければ出版元を絞ればいいとするカス思考がまかり通っている現状を私一人で変えるのは無理なことから、こんな感じで記録することしかできないのは正直言って歯がゆいです。しかしながらこの「ネットの海に流しておきたいと思ったものを取り敢えず置いておく」サイトとして顛末を流すことで、将来何かが起こった際の参考になれば幸いです。