共通テストとなって3回目の試験が2023年1月14日・15日に行われました。というわけで2023年基礎無し地学を勝手に解説していきたいと思います。さすがに全ての内容を一日の記事にしてしまうと長くなってしまうので大問ごとに分割してみました。この記事は大問5について扱っています。それでは、見ていきましょう。
注意
- この解説に付き、大学入試センターやその実施大学と一切関係はありません。
- 著作権関係の問題が発生する可能性がありますので、試験問題そのものの転載はしておりません。そのため大学入試センターや新聞社のWebサイトなどから問題を入手されることをおすすめします。
- この記事における内容の正確性は一切保証しておりません。
A - 火星で天体観測
この問題においては地球ではなく火星で人類が天体観測を行うという前提がおかれています。というわけで地球の常識が通用しないこともあるという話ですね(半分合っている)。では見ていきましょう。
問1 - 会合周期
ケプラーの法則と呼ばれる法則がこの世の中に存在します。第一から第三までの3つがあり、それぞれ
- 惑星は太陽を一つの焦点とする楕円軌道を周回している
- 惑星の面積速度が一定である(同じ惑星でも焦点に近ければ惑星は速く、遠ければ遅く周回する)
- 「軌道の長半径の3乗」と「公転周期の2乗」の比は比例関係にある
といった法則です。この問題においては第三法則が根底にあります。といってもこれを知らなくとも問題は解け、火星と木星の公転方向に関する知識があれば十分に解ける物だと思います。火星と木星の公転方向は同じであるため、会合周期は当然ながら長くなってしまいます。そのため3か4が選択肢となりますが、図3より与えられている情報から計算すれば、正答は3であると容易に導けるのではないかと考えられます。
問2 - 最大離角
一般的な理解をするべきな問題ではありますが、その前に地球視点で考えてみましょう。最大離角は地球に対する内惑星について発生するもので、以下のような図の条件において地球において観測できる角度のことです。
ご丁寧に三角関数表が書いてある通り、地球と火星の長半径を用いて考えてみましょう。そうするとおぼろげながら正答は3であることが明らかとなります。
問3 - 火星の年周視差
この問題では年周視差がなぜ発生しているのかを理解しておく必要があります。年周視差というのは太陽の周りを惑星が公転していることで発生する、その惑星から見た時に恒星が一年間で一周するように見えてしまう現象です。一周の大きさは恒星の天球上の位置によっても変化しますが、その惑星の公転半径によっても変化します。これと上記のケプラーの法則を理解されていればそこまで難しいものではないと思います。
大きいか小さいかが分かれば素直に式に入れて計算し、光行差は年周視差を理解していれば当然ながらすぐに選択できるため、正答は1です。
B - 恒星と地球視点
この問題においては地球から見た際の恒星がどのようなものかについて扱った問題が集められています。小問集合といった感じで、問題同士での関連性はあまり感じられない物であったと思います。
問4 - 突然発生するフレア
この問題においてはデリンジャー現象や磁気嵐を引き起こす太陽における現象は何かについて問われています。デリンジャー現象は電離層が攪乱されることによって短波通信に支障が出ること、磁気嵐は主に太陽からのプラズマによって地磁気が乱されることを指す言葉です。これらに共通する原因は太陽フレアであるため、正答は1です。
問5 - 地球視点から宇宙を見る
この問題においては選択肢の中から誤っているものを選択する問題です。これは(個人的にはあまり好きではない)しっかりとした知識を求める問題で、それぞれの問題文を検討することによって正答を導き出すことが可能です。
正答を先に示せば3が誤っている文章です。赤道面に対する黄道面の傾きは緯度依存ではありません。「黄道の歳差(Precession of the ecliptic、惑星歳差とも)」と呼ばれる変化は存在しますが、こちらも観測点の緯度に依存しません。そのためこの文章が誤っていると言えます。
問6 - HR図と星団
個人的にはこうした若干の考察を加える必要のある問題は好きです。前の問題が微妙だったので好感が持てました。さてこの問題では散開星団か球状星団のいずれかを観測したHR図を基にして、どちらのHR図が示されているのかとどのような恒星がプロットされているかを考察する問題です。この問題を解くためにはそれぞれの星団の特徴と、HR図上における位置と分類の対応に関する知識が必要とされます。
散開星団は比較的若い星団であると考えられており、老いていない星が活発に活動していることが知られています。そのため基本的に明るく高温の恒星によって構成されています。反対に球状星団は比較的年を取った星団であると言われており、赤色巨星が活動していることで知られています。そのため明るくはあるものの相対的に低温である恒星が多いと考えられます。
またこのHR図においては縦軸は絶対等級を、横軸はスペクトル分類を採用していることが分かります。絶対等級は大問1でも出てきた概念で、10パーセクに置いた際の恒星の明るさを表わしたものです。スペクトル分類は恒星からの可視光のうち強い部分を基に分類したもので基本的に恒星の温度に対応しています。代表的なスペクトルは熱い順に「Oh, Be A Fine Girl Kiss Me」という暗記法で知られている形で分類されています。OやBは高温な星、KやMは相対的に低温な恒星であるといえます。
これを前提に見てみると、HR図上においては明るいが低温である部分にまとまっていることが明らかになります。これと対応するのは球状星団で、赤色巨星が主体であると考えられます。というわけで正答は4です。
関連リンク
- 全体の解説
- 大問ごとの解説
- 2024年の第5問の解説
- 「2023年 共通テスト 地学 第5問 解説」Geosophy、2023年3月5日。
まとめ
解いてみて若干例年より難しい気はしましたね。特にAは夢がある問題のように聞こえますが、その実態は基本的な理解が出来ているかどうかを確認している、すなわち単なる暗記ではなく考え方を理解しているかどうかをチェックしようとしているなと感じました。これも含めて何というか「共通テスト感」のある大問だったと思います。