EVM互換レイヤー「Cosmos EVM」の脆弱性、Cosmos Labsがバリデーターに対しチェーン停止をようやく推奨

一部はv0.7.2で修正済みも適用が間に合わず、8月20日頃からCosmos EVM使用プロダクトに攻撃相次ぐ中で / 2026年08月25日

ブロックチェーン関連プロジェクトであるCosmos上で、イーサリアムなどとの機能的な互換性を提供する「Cosmos EVM」において、アンダーフローに関する脆弱性が存在したことに起因し、「Cosmos EVM」を使用する複数のプロダクトで不正な資金流出事案が相次いでいます。Cosmos Labsは8月25日に バリデーターに対してチェーンの停止を推奨 した旨を発表しました。

この記事では脆弱性の概要と発生した被害などに関して書いていきます。現在も進行中の事案ではありますが、参考になれば幸いです。

結論

  1. 特定条件下でアンダーフローに関するバグが存在
  2. 8月20日(日本時間)に v0.7.2 で一部修正も、バリデーターなどに対するアップデート推奨などがほとんど無かったか
  3. 複数のプロダクトで資金流出などが発生

Cosmos EVMとは

ブロックチェーン関連プロジェクトとしての「Cosmos」は複数の意味を持ちうる単語であり分かりにくい点もありますが、今回の問題を理解するために関連するコンポーネントや「Cosmos EVM」の役割を簡単に説明しておく必要があります。まずプロジェクトとしての「Cosmos」は、単一の巨大なブロックチェーンを作るのではなく、それぞれが独自の目的やルールを持つ複数の独立したブロックチェーン(Zone)を、(一般的には)Cosmos SDKという開発キットを用いて作り、ブロックチェーン同士を「IBC」という通信規格で相互に接続することを目指す 「ブロックチェーン同士のインターネット」のようなプロジェクト です。

合意形成にはTendermint(Tendermint Core)というBFT方式のコンセンサスエンジンが使われており、高速なブロック生成と対応する異なるブロックチェーン同士でもトークンやデータをやり取りできる相互運用性が特徴です。ただし通常ではEVM(Ethereum Virtual Machine)互換ではなく、したがってCosmos SDKで作られたチェーンはEVM互換ではありません。

EVMは、Solidityなどで書かれたスマートコントラクトを実行するための仮想マシンであり、イーサリアムに限らず多くのブロックチェーンで採用されているある種の共通実行環境です。MetaMaskのようなウォレットや既存のDApp、開発ツールの多くはこのEVMを前提に作られているため、 あるチェーンがEVM互換であるかどうかは、それらを(ほぼ)そのまま使えるのかを左右する重要なポイント になります。

「Cosmos EVM」のGitHub上のREADMEのスクリーンショット。2026/08/25時点。

「Cosmos EVM」は、通常ではEVM互換ではないCosmos上のチェーン上にEVM互換の実行環境を組み込むためのモジュール(Ethermintの後継)です。簡単に言えばイーサリアムとの直接的な接続を提供するものではなく、EVM上で動作するアプリケーション等をCosmos上のチェーンでも動作させることが出来るようにする機能です。

この「Cosmos EVM」を活用し、ビットコインを基盤とする金融サービスであるMezoやRWAを扱うMANTRAなどのサービスが構築されています。一方で「Cosmos EVM」はオリジナルのEVM実装とは異なる互換レイヤーに近しいものであり、オリジナルの実装に無い問題点が存在する可能性もあり、その影響が「Cosmos EVM」を使用するプロダクトに及ぶ可能性が存在しています。

アンダーフローに関する脆弱性

2026年8月20日(日本時間)、Cosmos Labsは「Cosmos EVM」の v0.7.2リリースしました。リリースノートは以下のような内容であり、重要なセキュリティアップデートと破壊的変更を含むことが記されています。

fix: Move tests to use eoa instead of module account as deployer (backport #1243) by @mattac21 in #1255

This release contains important security fixes. We recommend all chains upgrade to this patch release as soon as possible using a coordinated upgrade.

This release is state breaking.

セキュリティーアップデートの内容は「Cosmos EVM」を使用しているKii Chainのインシデントレポートに概要が記されています。同レポートによると、「Cosmos EVM」のステーキングに関する処理の中において、Vestingアカウント(段階的な資金ロック・解除等が可能なアカウント)の処理にバグがあり、あるアカウントが「委任(delegate)」した金額を残高表示から差し引いて反映する際(のCosmos側からEVM側への書き戻し処理)において、 残高 - 委任額 という計算が マイナスとなってしまった場合の保護が存在しなかった とのことです。

本来はエラーとなるべき処理ですが、チェックが存在していなかったためにアンダーフロー関連のバグを引き起こし、巨大な額を保有しているように見えるようになってしまったとのことです。攻撃者はこのバグと未公表のバグ2つを組み合わせて、残高より1wei大きい委任額を示すなどを行って多額の暗号資産をサービスから流出させたとのことです。

チェーン停止を推奨

このリリースを行った5日後である8月25日午前2時(日本時間)、Cosmos LabsはX上の公式アカウントにおいて「Cosmos EVM」を使用しているチェーンのバリデーターに対して、チェーンの一時停止を求める告知を公表しました。先述のインシデントレポートによれば主要なプロダクトに対しては8月22日の時点で連絡が行われていたようですが、それを改めて公表した形となります。これは 単なるメンテナンスを求める内容などではなく、極めて重大な事態が起こっている ことを示しています。

パブリックブロックチェーンは、本来的には誰にも止められないことが大きな価値の1つであり、多数のバリデーターが自律的に稼働し続けることで「止まらないシステム」を実現しています。そのバリデーター群に対して一斉に「ブロック生成を止めてほしい」と要請することは、この分散システムの根本に対する一時的な例外措置であり、運用をそのまま続けた場合においては問題が大きく進行してしまうような深刻な状況にあることを意味します。

一般論としてこのようなメジャーではないブロックチェーンの多くにおいてはバリデーター数が極めて少数であり、バリデーターとしての参加には既存バリデーターの同意が必要であることから停止が容易である上に、プロジェクトの主導者がブロック生成の緊急停止を行うことが可能となっていることが多いことから、このような投稿を行ったものと考えられます。分散性という点では問題がありますが、今回は被害の減少に役立つものとなりました。

Cosmos Labsが以上のポストを行った8月25日午前2時(日本時間)時点において、少なくともMANTRATACKii ChainNesaなどの「Cosmos EVM」を使用するプロダクトが資金流出の被害や不正な取引の検知などを理由にブロックの生成を停止するなどの防御措置を取っていることを明らかにしていました。

修正バージョンのリリースにおける意思疎通に問題か

一般的なセキュリティ対応の作法としては、脆弱性が発見された際にはまず非公開で報告を受け付けて修正を行った上で、その脆弱性の影響を受ける主要なコンポーネント(今回の場合はCosmos EVMを利用する各チェーン)に対して事前に個別の調整・通知を行い、パッチ適用の猶予を与えてから公表する、という「責任ある開示」の手順を踏むことが求められます。「Cosmos EVM」は言うまでもなく価値のある資産を扱うブロックチェーンに関係するものであり、脆弱性を悪用された場合には資産が損害を受ける場合がある場合はなおさらです。

影響を受けたプロダクトの1つであるKii Chainのインシデントレポートによると、「Cosmos Labsはダウンストリームのチェーンに対して事前の通知を行わず、そのリリースをセキュリティ上極めて重要であるとフラグ付けもせず、2日後の8月21日になるまでパブリックリリースが行われたことを影響を受けるチェーンに伝えませんでした(Kii Chainのプライバシーポリシーによれば、ボゴタに本拠が所在していることに留意)」としており、 Cosmos Labsを強く非難 しています。さらに21日に伝達が行われた際においても「この修正は非公開ですでに処理されていた別の無関係な問題のバッチとひとまとめにされていました。資金の恒久的な損失リスクを伴う、現在進行形で重大なバグとして緊急性を強調する記載は一切ありませんでした。チェーン停止の推奨もなされませんでした」としており、このような報告はMANTRAなどに攻撃が行われていた辞典よりも後にやることではないと指摘しています。

関連リンク

最後に

Kii Chainが指摘するように、少なくとも認識している主要顧客に対してアップデートを推奨する以前に修正されたバージョンを公開することは、差分を取れば「ここが脆弱性であった」と堂々とひけらかしているようなものであって、決して褒められるものではないでしょう。これでは非公開の場でバグ報告などが行われている意味が無くなってしまいます。

一方、今回の事案で特筆すべき別の側面としては、このようなプロダクト・ブロックチェーンにおける極めて少数のバリデーターの存在と中央集権的な運営が、被害の拡大をある程度防いだというものが挙げられます。例えばKiiChainでは、チェーンが停止した時点で(ブロック生成自体が止まるため)オンチェーンガバナンスによる合意形成が機能しなくなったことから、オフチェーンでの調整へとスムーズに移行したと考えられます。バリデーターの数が少なく、かつ運営側との連絡が取りやすい体制であった(あるいはバリデーターと運営が実質的に同一だった)からこそ、停止の判断から周知、実際のブロック生成停止までを短時間で完結させることができたと考えられます。

仮にこれがイーサリアムのように数十万規模のバリデーターが世界中に分散しているネットワークであれば、同様の「全バリデーターへの停止要請とその実行」を短時間で成立させることは事実上不可能に近く、被害はさらに拡大していた可能性が高いでしょう。つまり、本来は弱点とされがちな「中央集権性の高さ」が、緊急時の初動対応という文脈では被害を最小化する方向に働いたことになります。

個人的にはブロックチェーンの本質的な価値の1つである耐改竄性を強力に担保する分散性は、使用するブロックチェーンの選定において重要な要素であると考えています。私が主に使用しているPolygon PoSはバリデーターは100程度と少ないものの、バリデーターが極めて多いL1であるイーサリアムを通してある程度の耐改竄性が担保されていると言えますので、基本的には信頼して利用しています。

Polygon PoS自体のバリデーターセットはKiiChainなどと同様に決して多いとは言えず、単体で見れば同種の中央集権リスクを内包していますが、Polygon PoSはチェックポイントを通じて一定間隔でその状態のハッシュをイーサリアムのメインネットに記録しており、最終的な状態の正当性の担保をイーサリアム側に委ねる設計になっています。つまり、仮にPolygon PoS側のバリデーターが結託して不正を行おうとしても、その痕跡は最終的にイーサリアムという極めて分散度の高いレイヤーに刻まれることになり、少なくとも「事後に検証・追跡ができなくなる」という最悪の事態は避けやすい構造になっています。

もしPolygon PoSそのものに何かしらの問題が発生した場合にも、今回と同様の対応が取ることが出来るのかはちょっと不安です。今回の事案は本来的には問題とされがちな中央集権的な運営にもメリットがあり得るということと同時に、分散性の高いシステムではどのような仕組みで被害の拡大を止めるのかという問題をこれまで以上に重視する必要性が求められるものとなるのではないでしょうか。

Writer

Osumi Akari

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