土石流と火山泥流は何が違うのか

線引きが微妙に難しいしよく分からない / 2022-08-19T00:00:00.000Z

これまでも溶岩流であったり火砕流(火砕サージ)であったりをこのサイトではざっくりと説明させていただきました。火山災害関連の「流れ」として次に考えられるものは「火山泥流」と呼ばれるものがあります。

しかしながら、知識を整理しているうちに「土石流」との違いが分からなくなってきてしまったので、私のためにも皆さんのためにもここでいったん土石流と火山泥流の違いについて考えてみようかと思います。結局よく分からなかったけど。

結論

  1. 特に火山泥流というときは火山が絡んでいる
  2. 土石流の方が上位概念っぽい(そうか?)

辞書的定義

まずは辞書的な定義を見ていきましょう。

急勾配(きゅうこうばい)の渓流に発生する土砂や石礫(せきれき)と水とが混合して一体となった流れ。

日本大百科全書「土石流」より。コトバンク経由。

火山の斜面に堆積(たいせき)した火山噴出物が、大雨などによって多量の水分を含み、山腹を流れ下る現象。火山地域におこる土石流のこと。

日本大百科全書「火山泥流」より。コトバンク経由。

私が良く知らない分野についてかなりの信頼を置いているニッポニカにおいては、土石流は火山泥流の上位概念となっています。しかしながら他の文献では若干曖昧な書き方をなされています。

長雨や豪雨によって水を含んだ粘土や岩片が、突然一気に山の斜面を流れ下る現象。

デジタル大辞泉「土石流」より。コトバンク経由。

火山砕屑物が多量の水と混ざって山腹を高速で流れ下る現象。火口湖で噴火したときや、堆積たいせきした火山灰に大雨が降ったときに生じる。ラハール。

デジタル大辞泉「火山泥流」より。コトバンク経由。

詳しい話は次回に持ち込もうと思いますが、火山泥流とラハールが完全一致するという書きぶりには納得がいきません。肌感覚とは大きく異なります。とはいえ肌感覚で全てを片付けてしまったらこの世の中でそれなりに信頼できるものが自分だけになってしまうので、一応他の文献に当たってみましょう。

CiNiiで軽く調べたところ、阪上・國友 (2017)というめちゃくちゃ有用な文献が見つかりました。火山泥流の発生例を記録したものですから、当然ながら「火山泥流」とは何であるかを定義しなければリストとして役に立ちません。

本論で調査した既往文献には土石流や泥流の発生について言及しているものの,流れの状態を区別することは困難であった.そのため,本論では水を媒介とする火山砕屑物の流動現象であったと判断できる現象を総称して火山泥流(Lahar)と呼び,整理を行った.

阪上・國友 (2017, p.283)より

やっぱり不明瞭ですよね~~~。とはいえ「水を媒介とする火山砕屑物の流動現象であったと判断できる現象」という比較的便利そうな定義が示されています。先程の辞書的な土石流の定義と見比べてみると「火山砕屑物の」がやはり重要なのでしょうか。

他の視点で見てみると、西本 (2010)においては用語を整理したうえで火山砕屑物の絡む一次的な流れを「火山泥流」、火山砕屑物が絡むものでも二次的な流れは「土石流」として扱うべきとしています。個人的にはこの定義が肌感覚に一番しっくりきますね。

気象庁によると

日本の明日を唯一まともに考えていると噂される気象庁のWebサイトには、ありがたいことに「主な火山災害」というページがあります。ここのセクションに「火山泥流・土石流」というものがあるので、ざっくり読んでいきましょう。

火山において火山噴出物と水が混合して地表を流れる現象を火山泥流といいます。(中略)水と土砂が混合して流下する現象を土石流といいます。

(中略)土石流と火山泥流の区別は難しいですが、気象庁では、降雨により火山噴出物が流動することで発生する火山泥流のことをいう場合に土石流を使用しています。(後略)

…やっぱり難しいんじゃん。とはいえ気象庁の解釈としては降雨によって発生する火山泥流のことは土石流として扱っていることが分かります。火山泥流の発生要因として降水によるものと融雪によるもの(特にこちらをラハールと呼びます)があるのですが、前者を土石流の枠内に含めている感じでしょうか。

参考文献

  • 阪上雅之、國友優「有史以降の水蒸気噴火またはマグマ水蒸気噴火に関連した火山泥流」『地質学雑誌』第123巻5号、2017年、283-289ページ、ISSN: 1349-9963、NAID: 130005858596、DOI: 10.5575/geosoc.2016.0064
  • 西本晴男「火山地域における火山泥流,泥流,土石流の表現方法に関する考察」『砂防学会誌』第63巻2号、2010年、26-37ページ、ISSN: 2187-4654、NAID: 130004716576、DOI: 10.11475/sabo.63.2_26

最後に

前回のざっくりわかる防災シリーズ: 火山砕屑物の流れ「火砕流」

うーん。分からん。